※夢主は人魚
※ゲームは自分なりにやってますがにわかです(すみません)
陸の学校に通うことになり、教科書や制服や生活用品の用意もきっちり済ませた。というのに何か忘れている気がする。
出発三日前、鞄の前で一人うーんと考えたアキラは、やっとそれに思い当たってあっと声を上げた。手をポンと打ち、「薬だ」と口に出す。
「薬ですか?」
「そうそう、人間薬」
アキラは人魚だ。下半身は周りの人魚たちと同じく魚のような立派なヒレで、おかげさまで早く泳ぐことは得意だが、このままでは陸で生活できない。呼吸だってきっとままならないのだろう。歩いたり学んだりするためには足と肺呼吸を手に入れなければならず、それは一般的に薬で実現されるものだった。
慌てて訪ねた幼なじみは、アキラを見てハァと溜息をついた。なんだかすごく呆れている。
「アズールなら作れるよね?」
「もちろん用意できますが」
だよね〜さすが、とニコニコ笑うと、アズールが眉間に皺を寄せた。こんな大事なもの、どうして忘れられるんです、と呆れたように続ける。アキラはうーんと唸った。
「陸に行くなら大前提でしょう」
「大事すぎて忘れることもあるんじゃない?」
「またおかしなことを」
本当に陸の学校に行って大丈夫なんですか、とまで言いながら、アズールは薬の材料について確認しているようだった。ほどなくして、明日には用意できますから取りに来てくださいと頼りになる幼なじみが告げる。
アキラはパァッと顔を明るくした。
「ありがとう!」
「…………ただし、これは取引ですよ」
「うん」
「対価はきちんといただきます」
「うん。何渡せばいい?」
声とか?と何故か楽しげなアキラに、アズールはまたため息を吐いた。昔からアズールには呆れられてばかりだ。
「人魚姫じゃないんですよ。それに声なんて貰ってしまったら、陸で困るのはあなたでしょう」
「まあそうだけど」
じゃあ何?とアキラは尋ねた。
アズールはそこで少し言葉に詰まると、ふいと視線を逸らす。
「あなたの、鱗を一枚」
意外な対価に、アキラはきょとんとしてしまう。
そんなのでいいの、と聞き返すと、アズールは淡々と答えた。
「人間薬はそこまで難しい薬ではありません。ですからこの程度で勘弁してあげます」
「そうなんだ。……じゃあ」
アキラは自分の下半身を見る。光の加減でさまざまな色に輝く、見慣れた鱗たち。どれを渡せばいいのかわからなかったから、あまり傷のついていなさそうな、ちょっと大きめのものを選んで指でつまんだ。力を入れると、ペリッと小さな音が鳴る。
「はい、どうぞ」
「ええ、確かに」
差し出した鱗をアズールが受け取る。手が少し触れて、離れた。何故か目を合わせようとしないアズールのつむじを見ながら、アキラは口を開く。
「アズール」
「なんですか」
「お互い、向こうでも頑張ろうね」
「…………」
アキラは陸へ行く。アズールも、それからアズールと仲のいいウツボの兄弟も陸の学校へ行くらしい。ね、と念を押すように笑いかけると、やっとこちらを見たアズールが、少しだけ笑ってくれた。