※学生時代
部屋のドアがコンコンと叩かれた次の瞬間、「五条ー」とこちらを呼ぶ緩い声がした。
あきらだ。なんか約束でもしてたっけと考えて、読んでいた漫画を放り出しドアの方へと五条は向かう。
きぃ、と木の軋む音をさせながら、ドアを開いた。
「何だよ」
「いたいた。ねえ、服貸して」
「はぁ?なんで?」
部屋の入り口に立つあきらは女子としては平均に収まる体型だし、五条は男な上に規格外の体格をしている。
明らかにサイズ合わねえだろと片眉を上げて問いかけると、あきらはにこーっと笑って、「これこれ」と片手に持っていた雑誌を掲げた。
「オーバーサイズ、かわいくない?」
と指差した記事の中では、なるほどモデルらしい女子がぶかぶかの服を着て、街中でポーズをとっている。ふーん、とあまり興味のない相槌を打った。
「ほら、華奢に見えるし」
「華奢ねぇ」
目指せ守りたい系女子なんてほざいてあきらは拳を握る。一体何から守られるつもりなのだろう。
意味はよくわからないがやりたいことはわかった。まあいいけどと部屋に招き入れて、「汚すなよ」と忠告しておく。
中に何も変なものは入れていないことを頭の中で確認してから、引き出しを開けて「どんなのがいいわけ」と聞いた。
「パーカー!」
「へーへー。じゃあコレとか」
手に掴んだ服を何枚か、ぽいっとあきらの方に放る。その中の一枚を手に取って、うんうんと頷くと、あきらは頭からそれを被った。
唐突な行動に呆れた目を向けているうちに、あきらが襟から首を出す。立ち上がって丈とかいろいろを確かめている様子だ。
「…………」
明らかにでかすぎてワンピースみたいになっている。不格好だ。でもわりといいな、と思うのは、着ているのがあきらだからで、服が着慣れた自分のものだからだろう。
ちょっと上擦った気持ちに戸惑いながらフーン、と眺めていると、あきらがうーんと首を傾げた。
「やっぱいいや」
「は?」
「ちょっと大きすぎるし。オーバーって言っても限度があるわ」
言っていそいそと服を脱ぎ捨てる。その仕草に内心また少しビビった五条に向かって、畳んだパーカーを差し出した。
「返す」
「……おぉ」
残念、なんて思う自分が意外だ。
逆に未練もないらしいあきらは、「やっぱり五条はダメかー」とぼやきながら、パーカーを脱いだ時に若干ぐちゃぐちゃになった髪を整えている。
「夏油に借りてみるかぁ」
「はあ?」
思わず声を上げて目を見開いた五条を、あきらはどうしたのと不思議そうに見上げた。