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直哉の妹

※138話

 

「この度はおめでとうございます、お兄様」

部屋に戻るとあきらが三つ指をついて頭を下げてきたので、直哉は舌打ちをした。出ていく時とは打って変わって苛立っている兄は、纏う呪力もピリピリしており、その辺の使用人なら震え上がりそうなくらいだったが、妹に怯む様子は全くない。幼いころから躾けられた流れるような動作ですっと顔を上げる。
きょうだいの中でも比較的似た顔立ちが、直哉を見上げて笑顔を浮かべた。

「……祝ってくれたとこ悪いけどな、当主は俺やなくて、なんとかさんちの恵君らしいで」
「存じております。ですからおめでとうございます、と申し上げました」
「あ゛?」
「お父様も意外にちゃんと考えていらしたのですね」

口元を優雅におさえたあきらが、私、安心してしまいました〜と語尾を伸ばしてころころ笑う。ビキッと力の入った兄の顔に気がつかないわけがないが、そこにも怯みはしないようだ。恵君の件は当時もかなり揉めましたものねぇ、と軽い口調で懐かしむ。

「五条悟がいないなら、まあ取り戻そうとするでしょう」
「本気であのガキ当主に祀りあげるつもりなんか?」
「叔父様たちもそうなんでしょう?人望のないお兄様」

バキッと音を立てて隣にあった机が飛んだ。蹴っ飛ばされたそれを横目で見て、呆れたようにあきらがため息を吐く。

「そういうところだと思いますよぉ。当主決めが前当主からの指名でよかったですね。投票制ならもしかして候補にも入らないのでは?」
「やかましいわ。何しに来てん」
「からかいに」
「躾が足りんて?」
「冗談です。ただの警告ですよ」

あ?とドスの効いた声が圧力をかける。あきらはバカにしたように鼻を鳴らした。

「お兄様のことですもの。どうせ恵君殺したるわ〜なんて息巻いてるんでしょうけど、そう簡単に上手くいくと思わないことです、とお伝えに」
「まさかオマエ、お兄様の邪魔するつもりか?」

女の分際で、と隠す気もなくでてきた言葉を軽蔑して目を眇める。
嫌悪を微笑みで覆い隠し、おっしゃる通り女の身ですので、と口を開くあきらは目が笑っていない。

「前を歩く方くらいは選びます」
「……後悔すんぞ」

また大きな音がした。
不必要に障子を蹴破り、無言で出ていく兄の背に、あきらは笑いを引っ込める。
一人になった部屋の中、後ろに手をつき、足を崩して、少し荒れた部屋を眺めてから天井を見上げた。

「……あーあ」

しょーもな。

ぽつりと、乾いた声が部屋の中に響いた。