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五条悟の香水を作った

五条悟のことは面倒くさい男だと常々思っているが、あきらだって社会人の端くれだし、長い付き合いの相手でもあるから顔を合わせれば世間話の一つや二つはする。
今度香水作りに行くんだよね、とちょっと楽しみな予定について話すと、五条はへえと眉を持ち上げた。

「色気付いちゃってまあ」
「何がよ。いいでしょ別に」
「僕甘すぎる匂い好きじゃないよ」
「あんたの好み関係ある?」

やっぱり話さなければよかった、腹が立つだけだった。気分を害したあきらは五条との会話を切り上げたつもりで、スマホを取り出している。

「あきら」

なによ、と睨みつけると、五条はにんまりと笑いつつ、「僕のも作ってきて」と唐突なことを言った。

「……香水なんて使わないでしょ」
「使う使う」
「…………」

絶対適当だ。
しかし拒否するのも疲れる。

あきらは溜息を吐き、お金は後でもらうからねと話を結んだ。

**

「五条」
「んー?」
「これ」

あきらが差し出した小さな紙袋を、五条は首を傾げて受け取った。「香水」と短く言えば少しの沈黙の後、あれかーと思い出したように言う。すっかり忘れていたらしい。
お金と言って手を出すと、ポケットをごそごそやった後、黒い長財布をあきらに向かって放ってきた。
中身からお札を一枚頂戴し、自分の財布からおつりを数えて移す。「別にいいよ、そんなの」と言われたがこういうことはきっちりしておきたいのがあきらである。何より五条に借りを作りたくない。

「はい」
「ん」

財布を返す頃には、せっかく綺麗だった包装をボロボロにして、五条が中身のボトルを手にしていた。
シュッと腕に吹きかけると、あきらも一度だけ嗅いだ香りが広がる。
五条がなんとも言えないような顔をした。

「……これってどうやって作ったの?」
「普通に話しながら作って貰った。好きなものとか性格とか」

要するに適当である。
五条がどんなものを好きかなんてわからなかったから、素直にその辺りはわかりませんと言っておいた。ついでに恋人さんにですかと聞かれたので、違います同僚ですと強く否定したらちょっと困られた。

「性格って、なんて言ったの」

五条が質問を重ねる。何か不満でもあるのかと思ったあきらの声色が尖る。

「そのまま。自己中で自信家で、人を振り回して喜んでる。あと引くほどデリカシーがない。人の意見もあんまり聞かない」
「それ性格じゃなくて悪口じゃない?」
「だからそのままだって言ってんでしょ」

ただその分実力もある、という話もするにはした。言うのはなんだか癪だったので、意図的に伏せている。

「あと」

あきらが言葉を切った。
一瞬迷った後、まあいいやと判断してまた口を開く。

「……寂しがり」
「寂しがりぃ?」

怪訝な顔をされた。どこ見て言ってんのと不満そうだが、そんなのはあきらにもよくわからない。ただどんな人かと聞かれて、口から出たというだけだ。
だから多分、あきらは五条のことをずっとそう思っていたのだろう。
人から尋ねられることでしか気づけないことは、こんな風にたまにあったりする。

「文句があるなら自分で行けば」

ふいとそっぽを向くと、いいよこれでと五条が返した。「なんか地味な気もするけどねー」と余計な一言を加えてケラケラ笑う。

「…………」

そうだろうか、とあきらは思った。
意識してみれば、辺りには落ち着いた香りが漂っていて、あきらの苛立ちをいくらか和らげる。すっと軽く入り込んできて、そのくせ長く止まるところが、少し五条に似ている気がした。

「…………私は結構いいと思ったけど」

五条の顔を見ないまま、思ったそのままを口に出す。

「そっか」

ならいいや、と五条は意図の読めない返事をした。