大人気の赤いブランコの前で、互いに反対側の鎖を手に持ちつつ、子どもが二人にらみ合いをしていた。いや、争っているにしては怒気も何もないので、にらみ合いと言うよりはむしろ見つめ合いに近い。
罵りあうことも泣くこともせず、しかし一歩も譲る気のない彼らの間に入って、困り顔の先生は「じゃんけんしましょう」と提案をした。二人はうなずいて、小さな手を前に出した。
赤い髪に赤い瞳が、やたら強気に輝いて、なんだか腹が立ったのを覚えている。
『赤司に勝った奴』
それが高遠あきらが、周囲に抱かれている印象のすべてだろう。
赤司が頭角を現すに連れてその印象が与える効果もだんだんと大きくなっていき、あきら自身の影は薄くなる。
あきらがすごいんじゃない。赤司がすごくて、負けることのほとんどない人間だからこそ、あきらの存在は物珍しいものとして注目を浴びるのだ。承認欲求が強い人間ではないにしろ、こうして他人ありきの評価を下され続けて、不愉快にならないわけはない。
せめて何で勝ったのかとか、いつ勝ったのかとかもしっかり周りに言ってくれたらいいのに、赤司は意味深にぼかすだけで、それが余計に周りの好奇心を煽るのだった。
幼稚園の時に、ブランコを賭けたじゃんけんで。こんな勝ったともいえない事柄が、そろそろ十年の長い間、あきらに付きまとっている。
赤司がはっきり言わないから、興味を持った赤司に近しい連中がわざわざあきらのところに来たりする。青峰なんかはすごくはっきりとくだんねーと言ったし、黄瀬は苦笑い、黒子はなんにも言わなかったが表情が呆れていた。素直にすげーと感心する紫原や、どうやって勝ったのか教えろとしつこい緑間は例外として、やっぱり青峰たちの反応が正しい。くだんねー。そう、くだらないのだ。
「だいたいさあ」
赤司からの要望で、あきらは毎日彼と下校を共にしていた。赤司の部活が終わるまで、あきらは図書室で勉強や読書をして、閉館の時間になると練習を終わらせた赤司が迎えに来るのだ。今日も「待たせたね」と涼しげな顔をして現れた赤司の、隣に立つ。
「赤司が大げさすぎなんだよ」
「何のことだ」
「じゃんけん。一回しかやってないし、一回しか勝ってないのに、負けた負けたって」
「……事実だよ。君以外に負けたことがないから、仕方ない」
「今やったら私が負ける」
そうだ、いっそ、塗り替えてしまおうか。
筋肉の動きがどうのという魔法のような目を持つ赤司があきらに負けるなど、そんなことはもうありえないのだ。
赤司の方に拳をつきだして、じゃんけん、と唱える。遅れて赤司が右手を浮かせたが、結局何も形作らずにそのまま下ろしてしまった。
「……勝ちたくないわけ」
「別に」
常勝の人間にとって、こんな些細な負けなど取るに足らないことなのか。あきらという凡人にとっても、こんな些細な勝ちはどうだっていいことなのだけれど。
「今やったら、確かにオレが勝つけれど。どちらにせよ、オレはお前に勝てないし、やる意味がない」
「何言ってんの?」
「知らないのか。恋愛においては、好きになった方が負けなんだそうだ。」
驚いて止まる足を気にもしないで、赤司はどんどん先に行った。あきらの脳裏に突然蘇ってきたのは、手をパーの形にしたまま、呆然と大きな目を見開いている遠い昔の赤司の姿だ。ひょっとすると自分は今、あんな顔をしているのかもしれない、と彼女は思った。