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雪と緑間/krbs

吐き出す息が白い。あたりはもっと白い。東京に降り積もった雪は交通機関を大いに混乱させて、電車は止まるし自転車は走れないしで大変である。
そんなわけで、平日の朝だというのに、学校には人があんまりきていない。いるのは徒歩圏内に家がある私みたいな子とか、人事を尽くしていつもの時間より家を早めに出てきたらしい緑間くん(とそれについてきた高尾)みたいな子だけである。いつもなら朝練を始めている時間だが、無事学校にたどり着いている部員が少ない、何より車で通勤してくる監督がまだ登校しておらず、やりようがない。いやバスケは体育館競技だし、本当はあるにちがいないのだが、ないということになってしまった。すべては滅多にないレベルの積雪に目を輝かせている一部部員のせいである。

「緑間くんは、遊んでこなくていいの」

体育館の入り口で座り込んで、雪合戦などしてはしゃぐみんなを眺めながら、隣に座る緑間くんに問いかけた。見つめる先にははしゃいでいる部員代表の高尾がいる。いつも仲が良いのに、今日はいいのかな、と思ったのだ。

「オレは別に。お前こそいいのか」

緑間くんが答える。いつになく距離が近いせいか、それともすぐ傍で積もった雪が他の音を吸い込んでいるせいか、低い声がやけに目立って聞こえた。

「私もいい。寒いし」
「珍しくないのか?」
「うーん、そうでもないかな。うち、おばあちゃんちが秋田でさ。秋田すごいよ。こんなもんじゃないよ。もっと降る」
「……そうか」
「あ、でも、雪嫌いなわけじゃなくてね。景色見るのは好き」

言って、近くの木を指した。緑間くんの視線が指を追いかける。ちゃんと会話してるんだなあと思うと、ちょっと嬉しかった。

「木の枝とか、葉っぱとか。緑の上に雪が乗ってるのって、なんか綺麗でいいよね」
「……なかなか風流なことを言うのだよ」
「あはは」

もしかして誉められたのだろうか。軽く笑って、ちらりと横を見た。私が指さした先をまだ静かに眺めている緑間くんの横顔は、とても綺麗だった。緑間くんはあまり自分からしゃべりはしないが、かといって沈黙が苦痛に感じる相手ではない。
……のだが、心地よい沈黙は、残念なことに破られてしまった。

「あっやべっ」

べしゃり。

高尾の焦ったような声がしてすぐ。緑間くんの横顔に、雪の塊がぶつかった。近くにいた私にも冷たい飛沫が少しかかって、目を瞬いた。髪やら眼鏡やら鼻やらに雪をくっつけた緑間くんは、突然のことに対応できず固まっている。

「み、緑間くん」
「…………」
「緑に雪……ふ、風流だね……」

さっきまでの会話がちらついて、つい茶化すような言葉が出た。いや、真剣である。緑間くんは真顔のまま、すっと立ち上がると、

「高尾ォ……!」

地の底を這うような声だった。高尾にも聞こえたようで、びくっと体が跳ねる。

勢いよく走り出した緑間くんと、開き直って新しく雪玉を作り出す高尾を見て、ぷっと吹き出したのはきっと仕方がないことだった。彼は何事にも真剣に取り組む人間だから、帰ってくる頃には他のみんなと変わらず、ずぶ濡れになっていることだろう。
マネージャーとして、部員に風邪を引かせるわけにはいかない。タオルと暖かいものでも用意しておこうと決めて、私は重い腰を上げた。