本日は安息日である。神さえ休んだ第七の日である。私にとっても週に一度の確実な休みの日であり、前の晩はいつもの如くビールと日本酒をちゃんぽんしレンタルビデオ屋で借りてきた映画を二本見た。朝早く起きるという社会人の常識から束の間解放され、気持ちよく寝こけているはずだった私はしかし何故か今スーツを着て家を出る用意をしていた。後輩からの電話で叩き起こされたのである。「先輩ヤバいです」「……なにが」「とにかくヤバいんでマジ助けてください」「だから何がだよ」ヤバいの内容を説明しろと言っているにも関わらずパニックに陥っているらしい後輩は一通りわめくと一方的に電話を切った。このやろう。時計をみれば十一時、小腹がすいたが食べ物を口に入れる時間はない。
とりあえず化粧をして外に出た。昨日の酒が変な風に残っているのか足がふらついてアパートの階段から落ちかけた。咄嗟に手すりをつかんだせいで手が鉄臭くなる。冗談じゃない。
いつもの道のりをふらふらと歩いていくと、もう最近お馴染みになった風景と出くわした。見るからに所得が高そうな庭付き一戸建ての前に学ランをきたそこそこイケメンの男子高校生がリヤカーつきの自転車を駐車し、インターホンを押している。ほどなくして門が開き、緑髪の眼鏡男子が出てきたのだが、今日はなんだかふらついているようだ。
「どしたの真ちゃん」
「高尾お前……今日の蟹座のラッキーアイテムを知らないか……」
「見逃したの!?俺流石に日曜は見ないぜ、練習午後からだし」
「目覚ましが止まっていたのだよ。誰か見ていないかと黒子たちにメールを送ってみたが黄瀬以外から返事が返ってこない」
「ブフォ!!!……っていやゴメン、でどうすんだよ。今日練習試合だぜ」
「こんな状態では出れないのだよ……」
素知らぬ顔で近付き通りすぎながら、聞き耳を立て会話を聞いた。お前どんだけおは朝信仰して生きてるんだよ他にもっと信じるべきものがあるだろうが友達とか!いやいないみたいだねごめん!とまあ中の人ながら引いた。がしかし死にそうな声を出している高校生、しかも自分の携わっているもののファンをこのまま放っておくのはとてつもなく悪いことのように思えた。
「……はぁ」
溜め息をついて足を止め、踵を返す。カツカツとハイヒールを鳴らして近付いてくる大人にビックリしたらしい二人は目を見開いて固まっている。眼鏡男子は近くで改めて見てみるとものすごく背が高く、体格も悪くないので圧迫感があった。あとすごい美形だ。まつげ私より長い。
「今日の蟹座は七位。水辺には近寄らない方がいいかも。ラッキーアイテムは……赤い口紅」
言いながら鞄の中を探り、化粧ポーチのチャックを開ける。中から口紅を取って、ポカンと口をあけている眼鏡男子の胸に押し付けた。
「……あんまり占いに頼りすぎてんじゃないわよ」
恐る恐るというふうに眼鏡男子が口紅を受け取った。それを見て溜め息をつくと、言葉を探しているらしい彼を無視して背を向ける。もう一人の高校生は何故か今吹き出すのを必死で堪えていますさわらないでくださいみたいな顔をして口を抑えている。
急に恥ずかしくなってきて、私は出来うる限りの早足でその場を離れようとしたのだが、少しもしないうちに堪えるのをやめたらしい爆笑が耳に届いてきた。もうちょっと耐えろよ根性ないな!!!
そんな思いをしてわざわざ休日出勤したというのに、出迎えた後輩は私の顔を見るなりスマセン解決しましたと舌を出した。明日は後輩の星座を最下位にしてボロクソ言ってやろうと思う。