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おは朝中の人とチャリア組(もしバレ)/krbs

こういうときどんな顔すればいいかわからないの、と言ったら、きっと後ろで爆笑している黒髪の高校生はヒィヒィ言いながら笑えばいいと思うよって返すんだろう。しかし今私の表情筋はガチガチに固まってしまっていて、緩む余地は全くない。なんでかって意味がわからないからだ。どうして目の前の緑の髪の大男は私を見下ろしてキラキラ目を輝かせているのか。どうして頬を紅潮させているのか。どうしてそんなに美形なのか。憧れている芸能人の前とか超美人の前でそんな顔になるのなら気持ちはわからないでもないが、彼の目の前にいるのはどこにでもいそうな会社員の私である。しかも仕事帰りで顔の化粧も崩れて少々見苦しい。
異様な雰囲気に圧されて左足を一歩後ろに出した。カツンとヒールが音を立てる。それを合図にでもしたのか、彼が興奮した様子で口を開いた。

「先生!」
「センセイ?」
「お目にかかれて光栄です」
「コウエイ?」

鞄を持っていない左手をガッと掴まれ、少し屈んで顔を寄せてくる。近い。怯んだ私が数歩下がると普通に彼も前へ進んだ。

「あなたの星占いには本当に助けられているのだよ。コーナーが始まった小学生の時から毎日欠かさず視聴して言われたことに従っている。今の俺があるのはおは朝のおかげだと言っても過言ではない」

爆笑がついに引き笑いになった。これは苦しんでいるのではないかというレベルで咳やら何やらが混ざりはじめている。しかも地面に倒れ込んでいるらしくダン!ダン!と拳を地に叩き付ける音まで聞こえてきた。背を向けている私と違い彼には友人のその様子がしっかり見えているに違いないのだが、私を真剣な目で見つめる彼にとってはどうでもいいことらしい。もしくは見えていないのかもしれない。目が悪いのかもって、ああだから眼鏡なのか。役に立たないなら捨ててしまえ。
しかし小学生の時からって。コアなファンぶりに驚くよりもショックなのは小学生がこんなにでかく育つまでの時間を独身のまま過ごしてしまったという事実だ。

「マドモアゼル紫先生」
「ヒィ!」
「? どうしたのですか」
「な、なんでも……」
「マッ、マドモアゼル、紫って!!!ぶふぁ!!!」
「高尾ォ!人の名前を笑うなど失礼にも程があるのだよ!すみませんマドモアゼル紫先生」

いやそれ本名じゃないからむしろ君が黙ってほしいかな!おは朝占いコーナーを担当してウン年、ほとんど呼ばれたことがなかった名前が一方で真顔で呼ばれ、もう一方では全力で爆笑されている。ちなみに普通の反応ということなら高尾と呼ばれた彼の方であろうと思う。ウン年間の歴史の中で初めて要求されたサインとやらを差し出されたノートに書きながら、どうしてこんなことになったのだろうと考えていたら、そういえば今日は私の星座が十二位だったことを思い出した。ラッキーアイテムは確か日本刀なので持っていない。なるほどむらさきという漢字が思い出せないわけである。ヘロヘロの字で書いたカタカナと平仮名にいたく感動され、背後で笑われ、まさに最下位にふさわしい仕打ちであると昨日の自分を呪った私である。