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一人目

入学前に高専を下見に来る生徒は案外多い。今度の一年生も例外ではないようだ。
ふと立ち寄った待機室で見慣れない制服の見慣れない少年を見つけて、あきらは好奇心いっぱいの笑顔で「ねえ」と声をかけた。紙コップを手で持ちながら、こちらを見上げてくる少年に笑いかける。

「もしかして今度の一年?」
「……ええ。あなたは?」
「私は今の一年」
「へえ」

少年はそつのない笑顔をこちらに向けて、先輩でしたか、と言った。夏油傑、と名乗られたのでこちらも高遠あきらと名乗る。

「見学?」
「はい。任務が早く済んだので、せっかくだからと補助監督の方が」
「いないけど」
「呼ばれて出て行ってしまいました」
「ふーん。……じゃあ案内、私がしてあげようか?」
「いいんですか?」

いいよ未来の後輩のためだし、愛想よく笑いかければ、ありがとうございますと夏油が立ち上がる。
紙コップを律儀に捨てに行く後ろ姿に、ふと思いついてあきらは口を開いた。

「……そういえばさ」
「はい」
「次の一年、結構すごいの入ってくるって噂なんだけど。もしかして夏油くんのことなのかな?」
「……」

ゴミを捨て、夏油がこちらに向き直る。

「さあ?」

惚けたような声だった。返答とは裏腹に滲む自信が隠し切れていない。ふふ、と出そうになった笑いを咳払いで誤魔化して、あきらはそっかあと頷いた。