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巻き戻し2

呪術高専三年、高遠あきら。

一般家庭の出身ながら、何をきっかけにしたものか、一年の夏頃から急激な成長を見せ、一級にまで駆け上がった将来有望な生徒である。
教師として口に出すのは憚られるが、実を言うと五条はこの生徒を苦手としていた。
調子が狂うのだ。見た目はこれ以上なく普通の、十代の女子なのだが、振る舞いに掴みどころがない。普通に話してもからかっても肩透かしを食らう。
結構突っ込みの鋭利な、気の短い女子が多めな呪術高専で、ワンテンポ遅れているとも言えるあきらはかなり浮いていた。ホント呪術師って変人が多いよなあ、と自分のことは棚に上げて、五条はそう思っていたりする。

「先生」

そんな教え子に後ろから声を掛けられて、五条はどうしたのと振り返った。

「今日、悠仁……」
「はいはい。今日から七海と任務だよ。午前中に高専出たところ」

誰が聞いているかわからないのだ。口から出た名前を遮るように言葉を重ねた。

悠仁の映画鑑賞の日々もそろそろ終了ということで、あきらの任務に同行させたのが二日前だ。誰とでも上手くやれるタイプの悠仁は、あきらともやはり上手くやったようで、帰ってくる頃には高遠先輩からあきら先輩に呼び方が変わっていた。あきらの方も、虎杖から悠仁へ。
よっぽど気に入ったのかな、と考える五条の前で、あきらの表情がどんどん曇っていった。眉間に皺を寄せて、「……映画館の?」と言う。

「なんで知ってんの?」

仮にも一級術師が担う任務の内容だ。それを知っているのは明らかにおかしい。
訝しげに聞いた五条の疑問には答えず、あきらが何故かおもむろに腕を取った。

「え?」
「追いかけないと」
「は?待って待って、僕あともうちょっとで出かけるから」
「それよりこっちの方が大事」
「はあ?」

この後控えているのは特級案件だ。つまり五条が対応しなければいけないと判断されたもので、犠牲も現在進行形で出ている。そうでなければ適当に他の術師(それこそ七海とか)に投げて悠仁と共に映画館の方に行っただろう。そういうことをわかっていないはずはないのに、あきらは強引で、五条の腕を放そうとしない。というか力が入りすぎて痛かった。

「こっちの方が」

五条の腕を引っ張りながらあきらが言う。その声は真剣で、五条はついその先を聞いてしまった。

「この先たくさん人が死ぬの。術師も、一般人も」