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巻き戻し4

「死ぬと巻き戻るぅ?」
「うん、そう」

在学の二年半ほどで、五条とあきらがこんなに話したのはこれが初めてかもしれない。
一応免許を持っているという五条の運転で、あきらたちは高専の山奥から現場へと向かっている。慣れていないらしい五条の運転はところどころ危なっかしいが、他に周りを走っている車はないし、万が一事故を起こしたところで術師である二人が死ぬわけでもないので、まあいいやとあきらは思った。助手席で流れていく景色を見ながら言葉を続ける。

「最初に死んだのは一年の冬」

あれは年が明けてすぐのことだった。自分の術式もよくわからず、ただ呪具を振るい、敵を倒していた頃だ。術式だけではない。自分が扱っている呪力がどういうものなのかもわからずに、がむしゃらに呪霊を祓っていた頃。
その日の呪術実習はあきらひとりで向かった。なんてことのない心霊スポットの見回りだったはずが、あきらは運悪く一級呪霊に遭遇してしまう。未知の術式を扱うそれの攻撃を呆気なく受けて、薄れゆく意識の中、あきらは黒く光る呪力の核心を見た。でも。

「ちょっと遅かったから。その時はそのまま死んで、それで」

目が覚めたら一年の夏だった。

隣の五条が無言になったのも気にせず、あきらは先を続ける。
幸い一度掴んだ呪力の核心は、死んだくらいでは忘れなかった。あきらは術師として大きく成長し、その後も鍛練を積んで、年を越し、二度目の任務で自分を殺した呪霊を祓った。

「それから今まで二回死んで、同じように巻き戻ってる」
「……それがあきらの術式だって?」
「多分。でも何もわからないの。どれくらい巻き戻るのかも、あと何回戻れるのかもわからない」
「今回死んだ原因は、今向かってるところにいる呪霊なわけ?」

あきらは少し考えた。大きな括りでは間違っていないなと思って、頷く。はあ、と溜息が横から聞こえた。

「自覚してから、いつに戻ってもいいように私の権限で読める報告書は全部目を通してる。あの呪霊は、多分ここで祓っておかないとだめだったんだと思う」
「……そ。わかった」

五条は随分あっさり言った。
自分でも荒唐無稽な話をしている自覚はあったので、あきらはちょっと不思議になって隣を見た。
運転のためにサングラスに付け替えた五条の横顔は、まっすぐ前を見据えていた。

「……信じるんだ」
「まーね。教え子のことはとりあえず信じるのが先生ってもんでしょ」

ちょっとびっくりしたような嬉しいような。
目を丸くした後、下を向きなんとなく黙ってしまったあきらに向かって、五条が何気ない口調で聞いた。

「その巻き戻りって、最高でどれくらい?」
「……わからない。半年の時もあったし、一年近くの時も」
「十年くらいとかあり得る?」
「どうかな」
「そう、じゃあ」

──もしこの先、十二年くらい巻き戻ることがあったら、やってほしいことがあるんだけど。

運転を続けながら五条が言った。やけに具体的だなと思いながら、あきらはうん、と相槌を打った。