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呪霊がいない世界で

この世界には呪霊がいない。そのことを理解したのは十二歳の誕生日だ。正確には呪霊とかいう化け物蔓延る世界で呪術師とかいうそこそこすごい人間として生きていたハードモードな人生を思い出しただけである。
まあ今の私に見えないだけで、ひょっとするとここも同じなのかもしれないが、私に見えないならいないのとほとんど同じことだ。もう命をかけて戦わなくてもいいし、誰かを助けるために怪我をしなくてもいい。普通に学校に通って勉強して家族と暮らせばいい。そうして一度目の人生では縁のなかった高校受験を経て、真新しい制服を着て高校に入った初日、五条先輩と出会った。

先輩は私のことなんか覚えていないらしく、というか名前的には五条先輩でもないらしく、それでも毎日夏油先輩(名前は夏油先輩ではない)や家入先輩(名前は家入先輩ではない)と連んで楽しそうに過ごしている。学年の違う私の耳にも夜蛾先生(名前は夜蛾先生ではない)の怒鳴り声が聞こえてくるくらい、楽しそうに。