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保険をかける

遺書を書くことになった。いつ命を落とすかわからない呪術師として、後悔は一つでも減らしておけと先生は言う。しかし書く相手が思いつかない。両親は結構前に死んでいるし、友達に遺書を残すのはちょっと重くて申し訳ないし、でもなにか書かないといけないらしいし、というわけで、五条先輩にあてて書くことにした。言いたくても先輩後輩の壁に阻まれて言えないことがたくさんある。せっかくだからここでぶちまけてしまおうと思ったのだ。どうせ先輩がこれを読むのは私が死んだあとなのだし、それなら死んだもの勝ちだ。報復の心配もしなくていい。

五条先輩へ。遺書を書けって言われたけど相手がいないのでしかたないから先輩にあてて書きます。とそこから始まった手紙は普段の恨み辛みその他を重ねて便箋七枚にもなり、私はそれに丁寧に封をして、先生へ提出した。

「あきら!」

もし死に際に私が何か変なことを言ったとしても、それは死に際でハイになった私で普段の私ではないので、どうか真に受けないでください。と居合わせた人にはそう言ってください。

遺書にはこういうことも書いていたから安心だ。先輩が駆け寄ってきたことを気配で知る。最期に会えるとかなんて幸せなんだろう。好きです、掠れた声でそう言って、もう見えてもいない目を閉じた。