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運試しに至るまで2

震える手でお茶を出し、子供たちにはジュースを出して、夏油の前に縮こまったあきらが要求されたのは当面の宿であった。
あんたの言うとおりに(時々とはいえ)人助けをして生きているのになんでこんな目にとか、高専があるのになんで私が部屋貸さないといけないんだよとか、その子供たちはなんなんだとか、言いたいことは山ほどあったが、それを口に出す勇気はない。夏油の方も無茶を言っている自覚はあるのか、最初から脅す気でいるので余計、あきらに断るなんて言う選択肢はなかった。

自分の寝室を夏油たち三人に提供し、あきらはリビングのソファーで眠る。慣れない手つきで四人分の食事を作る。夏油の服、美々子と菜々子という名らしい少女二人の服を買う、暇つぶしの本を買う、アニメ映画のDVDを借りてくる。

そんな妙な生活にも、一週間もすればさすがに慣れた。
夏油は四六時中あきらを脅すことはやめたようで、呪霊を引っ込めることが多くなったし、どこかしら遠慮していることも、落ち着いて見てみればわかってきた。ちょっとした軽口くらいは叩けるようになっている。

「たまねぎきらい」
「好き嫌いしない。大きくなれないよ」
「でも、きらい……」
「わがまま言わないの」
「そうだよ、二人とも。ちゃんと食べなさい」

食事中、皿の端にたまねぎを避ける双子に注意していると、苦笑した夏油が横から口を出す。二人は顔を見合わせて、ちょっと悩んだ後、渋々夏油様が言うなら……と避けたたまねぎに箸をつけた。あきらが言ったときとは大違いの様子に、思わずじっとりとした視線を投げれば、夏油が「何か?」と微笑む。

あきらは眉を寄せたままため息を吐き、高専から入ったばかりの情報を告げる。

「……今日、前に任務に付き合ってくれた補助監督から連絡があってさ」
「へえ」
「高専の生徒が、どっかの村の住人皆殺しにしたんだって。両親も殺して逃亡中」
「……」
「どういうことなの」
 

──せっかく力があるんだから、人を助けることに使ったらどうですか
 

自分がそう言ったんじゃないのか。過去を思い返して、責めるような探るような視線を向けるあきらを、夏油は穏やかな目で見つめ返した。