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運試しに至るまで1

小さな頃から変なものが見え、人にはできないことができた。そしてそれを誰とも共有することができなかった。

不可解な言動を繰り返すあきらを気味悪がった両親に嫌気がさして、家を出たのが十七の頃、偶然知った呪詛師の世界に中途半端に足を踏み入れて、周りから見ればセコい悪さを働き始めたのが二十歳から。そして呪術高専なんてふざけた名前の組織に所属する、結構年下の少年にボコボコにやられ、説教をされたのが一昨年のことだ。
 

「──せっかく力があるんだから、人を助けることに使ったらどうですか」
 

馬鹿でかい呪霊に甘噛みされて戦々恐々としているこちらを見下ろしながら、夏油傑という少年はそんな綺麗事を嘯いた。

力の差ははっきりしていた。おまけに目の前の少年が一言命令を出せば、すぐに噛み殺されるのがわかっている状況である。

「一緒に来てください。大丈夫、悪いようにはしませんから」

薄く笑いながら言われたそれはただの脅しだ。風前の灯火となった自分の命に涙目になりながら、わかった、わかったから、とあきらは頷く。ガジ、と戯れに強くなる締め付けに身をすくませると、「あぁ、すみません」と少年はわざとらしく謝った。

 

そんなある意味トラウマになっている相手が、突然自宅に押し掛けてきたのだから、あきらの驚きは相当なものだった。

「お久しぶりです、あきらさん」

郊外に借りた広いのが取り柄の古いマンション、その玄関に、貼り付けたような笑顔の夏油傑が立っている。ご丁寧に夏油の背後の空間が割れ、そこから見覚えのある呪霊が顔を出していた。
ひっと喉からひきつった声が出て、体が固まる。

「部屋に入れてくれませんか。頼みがあるんです」

それはやっぱり脅しだった。こくこく頷いて、迎え入れるように一歩退く。そこでやっと、手当の痕も痛々しい小さな女の子が二人、夏油の後ろにくっついていたことに気が付いた。