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ぜんぶうれしいの/tkrb(加州清光)

今日一番の戦果をあげたのは自分であるから、何かご褒美がほしい、と言ってきたのは清光だった。私は少し考え込んで唸り、それから手をぽんと打つ。
清光のわくわくした目が私を見つめた。

「清光、欲しいもの言っていいよ。ただしあんまり高くないものね」

結局のところ丸投げだ。だって何を喜ぶのかわからなかった。懐に入っているあめ玉程度じゃ喜んではくれないかもしれないし。
今度は清光が考える番だった。

「……ものじゃないと駄目?」
「ううん。大体なんでもいいよ」
「じゃあ」

清光が手をずいっと私の方に出した。いつも赤く、きれいに整えられている爪には細かい傷がついて、肌色が見えている。
たぶん此度の戦闘のせいだろう。手入れによって傷は治せるが、こういう細かいところはどうにもならない。

「……主が塗って?」

なんだそんなことかーと快諾すると、清光は一旦部屋に帰って、すぐ戻ってきた。大事そうに持った包みをはいと差し出してくる。中にはいつか私があげた赤いマニキュアと除光液があった。
大事に使ってね、と念を押す清光におうよと答え、慎重に刷毛を使う。
……使ったのだが。

「ぷっ……」
「あっ動くなはみでる」
「もう十分はみ出てるじゃん。主、無器用だね」
「うるさい」
「ごめん。怒った?」
「怒ってないけど」
「よかった」
「……」
「……」
「……あの」
「ん?」
「やりなおそうか」

十指すべて塗り終えたところで改めて全体を見た。
ひどい出来だった。刀にばかり触れてきた手では、このたぐいのことは難しいとみえる。
除光液を手に取ったのだが、清光は指の先に息を吹きかけながら、これでいーよ、と私を止めた。

「もったいないし」
「なくなったらまた買ってあげるのに」
「俺がいいって言ってんだから、いーの!」

えへへ、と上機嫌に笑って、いつもよりずっとぼろぼろの爪のまま、清光は部屋から出ていった。なんだかよくわかんない子だよなあ、と思う。扱いにくいとは、思わないけど。