鶴を一匹、捕まえた。
「主はこんなこともできたのか。驚きだなぁ」
感心したように息を吐く鶴丸は、体を白い紙のようなものでぐるぐる巻きにされて転がっている。式を打って捕らえたのだ。簡単に破れはしないだろう。
もぞもぞ、と面白がって体を動かす白一色の男に、咳払いをしてから話しかけた。
「鶴丸」
「うん?」
「反省していますか」
金の目が私を見た。うーん、と考える。
「……まあ少しな。君がそんなに驚くとは思わなかった」
悪びれもせず笑った。
鶴丸が私の後ろに忍び寄り、わっと驚かせてくれたせいで、書き途中だった文が墨にまみれてぐちゃぐちゃだ。最初からやり直しである。ただでさえ筆に慣れていないから時間がかかるのに。
まったく、儚げな容姿に似合わず、はた迷惑なじいさんだ。
紙の上に放りっぱなしになっていた筆を取った。墨に浸してから、立ち上がっていまだ転がったままの鶴丸のそばへ寄る。お、お?と楽しげな声を出して鶴丸が私を見上げた。
「……罰ですよ」
言いながら、白い頬に言ったとおりのバツをひとつ。
目の周りにぐるりと黒い丸を書く。間抜けなご面相のできあがりだ。
それでも鶴丸はやっぱり楽しそうなので、何の罰にもなっていなかった。夕食までそのまま転がっていてください、と告げて背を向ける。
文机の前に座り、ゴミと化した紙を丸めて屑籠に入れる。
「なあ、なあ」
「静かにしてください」
「君は人生で一番大事なものは何だと思う」
「……なんですいきなり」
「俺はいつも言っているとおり、驚きが大事だと思うよ。こうして君を驚かせるのも楽しい」
本当に迷惑である。面倒くさい。
新しい紙を広げ、筆を取りながら、そうですね、愛ですかね、と適当なことを言う。
「なるほど愛なあ。それもいい」
「愛は地球を救いますしね」
「ほう。ちきゅうとは」
「世界のことです」
「それはすごい」
「でしょう」
「なあ主」
「はい」
「俺が君を愛してやろうか?」
「……」
……その格好で言われても。
ため息をつけば鶴丸は違いないと笑った。捕らわれ転がり落書きまでされているのだから、ときめくものもときめかない。
「仕方ない。今度改めて出直すことにしよう」
なんだかとても呆れてしまって、驚かせるのは無しですからね、と釘を刺すことしかできなかった。