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ルチルと末っ子/宝石の国

「だめですよ」

ルチルが諫めると、その頬に触れようとしていた白い手のひらがぴたりと止まる。ぱちぱちと長い睫が瞬きにあわせて揺れた。

「どうして?」

たどたどしく尋ねるその瞳には、六条の輝きが青く宿っている。ルチルは呆れ気味に息を吐いて、「素手で触れあうと割れてしまいますから」と丁寧に答えた。
アキラはついこの間、奇跡のような確率のもとに生まれたばかりの末っ子だ。言葉を少しずつ覚え、今は基本的な知識をやっと得ている段階であった。
手袋をはめた手でアキラの手をつかみ、下へ降ろす。膝の上に行儀良く並べて手を離した。
アキラが見上げて口を開く。

「われてしまうの」
「ええ。フォスがよくそこここで開いているでしょう」
「われたところは、きれいな色をしてる」
「あれが本来の私たちの色です」
「花みたいに」
「そう。だからこうして、狙われます」

月人に。
花のように美しく、けれど枯れも朽ちもしない宝石たちは常に狙われている。だから戦わねばならない。力がいる。アキラが将来何の仕事を担うことになるのかはまだわからないが、硬度だけで考えるならば、彼はきっと強い戦士になれるだろう。強く、美しい戦士に。

「……ルチルにふれたら」
「だめですよ」
「どっちがわれるの?」
「……どっちでしょう」
「わたしがわれるのはいいけれど」
「よくありません。誰が付けると思ってるんです」

仕事をあまり増やさないでくださいと優しく諭しておく。こういうことは幼いうちから教えなくては。
ルチルの言葉を受けて、うんごめんなさいとアキラは言った。何も知らぬが故に、素直な子ではあった。
アキラが目を閉じる。

「ルチル」
「はいはいなんですか」
「わたし、ルチルがわれるのはいやだから」

……だから、さわらないように気をつけるね。

さわやかな風が吹いた。アキラの短い髪が靡いてしゃらしゃらと心地よい音を立てる。
アキラは幼く、何も知らない、素直な子だ。そしてきっと、とても優しい子でもあるにちがいない。