「殺さないで下さい」
「なんだいきなり」
「ただし殺されないで下さいね」
武田と同盟を結ぶことと相成った。その一貫で上田城を訪れ旅立つ前の一時を過ごしている。飯だ酒宴だと持て成される中いつの間にか真田は虎のオッサンに酔い潰され、今は忍の介抱を受けている。水だ手ぬぐいだと手際良く用意する忍の手はかいがいしい。しかしそれに加わらなければいけないはずの真田幸村の奥、せっかくの宴だからと顔を出していたそいつは、自分の旦那を心配するでもなく何故か俺に酌を続けていた。他国の主を前にして怯むこともなく、あいつと同い年とは思えないくらいの落ち着いた微笑みをたたえているくせに、言っていることは無茶苦茶だ。
「あの方は炎そのものですから。あなたという対象がいなくなったら、きっと行き場をなくして、自らを焼き尽くしてしまうでしょう」
「お前の旦那のために俺に犠牲になれってか。たいしたegoismだ」
「なんとでも」
呆れて緩く左右に首を振る俺をおかしそうに見つめている。酒のせいで上気した頬を緩ませて口を開いた。
「生き続けて、燃やされ続けていてください。あの方が生きるしるべを無くさぬように。あなた様にとっても、悪い話ではないのでしょう?」
俺を見透かすそいつの目には、なるほど、あいつと同じ炎が宿っている。