子供の死体だ。
呪霊退治の道中で見つけたそれのそばに、硝子はぺたんと座り込んで、閉じていた目を無理矢理あけさせたり体の傷を確認したりと検分を進めている。
五体は揃っているとはいえ、物のように力をなくして手や足を投げ出したちいさな抜け殻を、あきらは直視する事ができない。ただ自分たちの役目を果たそうと、手に持った武器をぎゅっと握りなおして、小さく友人の名を呼んだ。
「硝子」
「なに?」
「行こう。多分上の階に、その子を殺したヤツがいる」
だから早く、と急かしてみるものの、変わり者の友人は確認の手を止めようとはしなかった。うーん、うん、と口の中でぶつぶつ呟いて、何もできずに立ち尽くしているあきらをふと見つめる。
「あきらは先に行って」
「は?」
「私はこの子、治すから」
え、と間の抜けた声をあきらは出したと思う。
当たり前だ。腕も足も折れ曲がって、息もおそらくしていない。あきらから見てその子供は明らかに死んでいるのに、硝子はその子を治すと言った。
こちらの反応なんて気にした様子もなく、硝子は気合いを入れるようにぐっと腕まくりなんてしている。伸縮性があるとはいえ、硬めの生地はすぐに降りてきてしまって、ありゃと声を上げていた。
あきらは一瞬呆然とした後、はっと我に返って慌てて口を開く。
「硝子!」
「ん?」
袖を捲り治していた硝子は、呼ばれてやっとまだそばにいるあきらに気づいたらしい。不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの」
「どうしたのって」
言葉に迷う。それでも聞かずにはいられない。
「その子、…………な、治るの?」
「治すよ」
まただ。
やっぱり当然のことみたいに硝子は言った。
あきらが一層びっくりして、「そんなにすごいの」と尋ねれば、「すごいの」と硝子が胸を張る。他の同学年二人がいたら緊張感なさ過ぎと呆れられそうな会話だったけれど、二人はいたって真剣だった。
「内臓も揃ってるし。大丈夫大丈夫」
「……」
「だから先行ってて」
そんな会話をしているうちにも、硝子の呪力が子供の体を覆っていく。
息なんてとうに絶えたと思っていたその子が、ふう、と弱々しく息を吹き返したのを聞いて、あきらが目を見開いた。
途端に「わかった!」と大きく頷いて、硝子のいた位置を通り過ぎ、呪霊に向かって走り出す。
「他にも誰か死んでたら教えてね〜」
治すから、と口に手を当てた硝子があきらに向かって呼びかける。オッケーと振り向きざまに声を張り上げてから少しして、あきらが振り返った。
「硝子!」
「なーに」
「私が死んでも治してね!」
もちろん、と遠くなった硝子が得意げに笑った。
あきらはなんでもできる気になって、目の前の階段を勢いよく駆け上がり始めた。