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前夜の悪巧み/過去二年

今日も今日とて真面目に呪術実習を終え、風呂に入って夕飯を食べた。自室に入ってそろそろ寝るかとくつろいでいたところに、机に置いた携帯電話がブルブルと震え出す。

「げ、五条」

やれ星漿体の護衛だ、沖縄だと後輩まで駆り出して重要任務についている同級生である。
時間も時間だ。出るかどうかについては迷ったが、無視すると後が面倒なのが経験上わかっていたので、あきらは渋々通話ボタンを押した。

『硝子は?』
「…………」

第一声がそれだ。
携帯を耳にあてたまま、あきらは呆れた顔をした。

「なら最初から硝子にかけなよ。じゃ」
『は!?オイ』

ピッと電源ボタンを押す。
五条の少し慌てたような声が途切れ、部屋に就寝前の静けさが戻った。

「…………」

のは束の間だった。
また震えだした携帯の画面には夏油傑の文字があり、あきらはため息を吐いて、もう一度通話ボタンを押した。
 

**
 

結局四人で話がしたかったらしい。
電話の向こうでカリカリしている五条(寝不足らしい)とそれを宥めながらの夏油の要請で、あきらはぶちぶちと文句を言いつつ、隣の部屋のドアをノックした。出迎えてくれた眠そうな硝子に画面を見せ、部屋に上がり込む。
携帯の設定をスピーカーに変えて、机の上に置いた。

『明日そっち帰るから』
「…………」

勿体ぶっておいてそんなわかりきったことを言い出した五条に、あきらは顔をしかめ、同意を求めるように硝子を見た。眠い目をこする硝子が、「知ってるよ」と返す。
明日は満月だ。星漿体と天元様の同化が行われる日だった。詳しく話を聞いているわけではないけれど、概要くらいは二人も把握している。

「だから何」
『……あきらっていちいち腹立つ言い方するよな』
『まあまあ。悟の言い方も悪いよ。回りくどい』
『……フン』

電話の向こうで拗ねたらしい五条のかわりに、夏油が説明を引き継いだ。星漿体が置かれている状況、敵と見られる相手のことに今後の予定と、次々語られるそれを頬杖をつきながら聞く。
最後に、高専に到着するのが明日の夕方ごろになると夏油は結んだ。

『……でだ』

ここからが本題らしい。
硝子と顔を見合わせてから、携帯を見た。少し間を置いた後、夏油が再度口を開く。

『星漿体を逃がそうと思う』
「えー」
「はあ!?」

それぞれに驚きの反応を返すと、だって馬鹿らしいじゃん、と五条が続けた。

『世界のために死ねとかさ。呪詛師と俺達、どっちが悪人だよって話』

星漿体のことはあきらも知っている。五百年に一度の役割のために産まれ、育てられる子供のことだ。当代のその子が、まだ十四歳の、あきらたちよりも年下の女の子だということも、知識としては知っていた。

「できるの?」

硝子が尋ねる。
『できるできる』と随分簡単そうにに五条が答えた。

『要は同化をさせなければいい。高専に常駐している呪術師は少ないし、私と悟で大抵の相手はどうにかなる』
『そういうこと』
『しかしまあ、彼女たちを近くで守る役が足りないからね。硝子とあきらにはその辺り協力してもらおうかと』

あきらが硝子の方を見やる。携帯に視線を向けていた硝子が、あきらを見て、何も言わずに目を戻した。

『まだわからないけどね』
「……どういうこと?」
『最後は本人に聞く。同化するか、今まで通り、……とはいかないけど、家族や友達と暮らすか』
『自分より世界の方が大事ないい子ちゃんならそのまま同化。自分と周りの方が大事な普通のやつなら逃がす。……まあ』

少し間が空いた。

『クソワガママなガキだから、多分逃がすことになるよ。なあ傑』
『そうだろうね』

ハハハ、と明るい声が部屋に響いた。
なんでもできると思っているやつらの声だ。そしてあきらも硝子も、それが大体の場合において、間違っていないことを知っている。

『——で、どうする?』

とってつけたような笑い混じりの確認に、あきらと硝子は揃ってため息を吐いた。
この学年は問題児揃いだ。今更確認なんてしなくても、答えはわかっているくせに。