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五条悟の復活

※72話より後を力一杯捏造しています
 

五条悟が死んだ。

異変を感じたあきらが駆けつけたとき、五条は自分で壊したのだろう建物の残骸に紛れて、一人で横たわっていた。
あきらがすぐ近くで息を切らしているのに、みっともないとも運動不足だと言って笑いもしない。体のあちこちに大きな傷があり、そこからどくどくと血が流れ出している。虚ろに半分閉じられた目には光もなくて、あんなに特別だった瞳が、ただのガラス玉のようだった。

「嘘だ」

喉からは掠れた声が滑り出た。
そうだ嘘だ、冗談に決まっている。よりによって五条悟が死ぬわけがない。だっていつも、自分達のことを最強だと言って笑っていたのだ。
きっと全部作り物で、きっといつもの、質の悪い冗談だ。
もう少しすればその辺の草むらからドッキリ大成功とでも大きく描かれた看板を持った二人が、笑って、

「あきら」

びくり、とあきらの肩が跳ねる。
その場に立ち尽くしたまま動こうとしないあきらの背をぽすんと叩いて、いつの間にか追いついていた硝子は続けた。

「先生呼んできて。待機の術師も」
「……」
「何が起きたかまだわからないけど、次は夏油が危ないよ」
「……わかった」

ギリ、と唇を血が出そうなほど噛みしめながら、あきらは頷いた。今にも取り落としそうだった自分の武器を握りなおして、顔を上げる。
目尻に滲み始めていた水分を乱暴に拭った。
泣くのは今じゃない。全部終わったあとでいい。
血だまりの中に沈み込む同級生の姿を最後に目に焼き付けると、踵を返して走り出す。

「気を付けて」
「うん」

五条の体に歩み寄る硝子に、治るよね、と尋ねたりはしなかった。それはきっと、ひどいことだろうから。
 

**
 

五条が死んでからの一週間はあっという間に過ぎた。呪詛師の高専結界内への襲撃、結果生徒が一人死んだのだ。加えて星漿体の件もある。その影響は計り知れないし、まだ落ち着きそうにない。硝子がある程度治したとはいえ夏油の傷も深かった。
二年を共に過ごした友人を失って、それでも立ち止まることは許されずに、あきらたちはまた、呪霊と戦う毎日を過ごしている。

結局あれから、五条の遺体をあきらが見ることはなかった。夏油も同じだろう。
硝子はもしかしたら解剖に立ち会ったりしたのかもしれないが、誰もそれについては聞かないでいた。
 

「……今日はお前達に知らせておくことがある」

すっかり静かになってしまった教室の中を見回して、珍しく歯切れの悪い担任が言った。
置かれている机はまだ四つだ。そのうち三つを埋める残った生徒達の顔、特に夏油とあきらの方を気まずそうに見てきたので、あきらは訝しげに眉を寄せた。

「どうしたんです、先生」

同じく疑問に思った夏油が尋ねている。夜蛾はやはりあーだのそうだなだの、言葉を濁すような珍しい態度を見せた。
サングラスのせいでよくわからないが、申し訳なさそうにも見える。あきらと夏油が顔を見合わせた。

「実はだな……」
「やっほー!!ただいま!!」

何か言い出しかけた語尾をかき消すように、乱暴な音を立てて教室入り口の引き戸が開け放たれる。
そこから満面の笑みを浮かべた、

「傑もあきらも元気してた!?」

五条悟が。
ひょっこりと。

「…………」
「…………」
「……え、何この反応」

すっかり固まっているあきらと夏油を指さして、死んだはずの五条が不思議そうな顔をした。パシャ、と写真を撮るような音がする。音の方向を見ると硝子がこちらに携帯を向けていて、横から五条が「動画って言ったのに」と文句を言った。
なんだこれは。

「……悟」
「おっ、喋った」

なんだこれは。

高専に入ってから何度目かわからない、担任の大きなため息を聞いた。

「し、死んでたじゃん。私見たよ」

放心していたあきらがやっとのことで呟くと、硝子が「私が治しました」と大きく手を挙げた。

「……硝子はそこに正座」
「えー」
「いいから座って。怒るよ」
「はいはい」

大人しく正座を始めた硝子から目を離し、泣いて喜ぶと思ったのにと不満そうにぶちぶち漏らしている五条を一瞥する。いつも傍らに置いてあるケースから武器を取り出しながら、あきらは隣に立つ同級生を見た。

「夏油」
「ああ」
「先やっていいよ。譲ってあげる」
「ありがとう」

夏油はにっこりと柔らかく笑い、正面に立つ五条に向き直る。元気そうな死人はこちらの意図を悟って、にやりと口の端を持ち上げた。

「オイオイ、それが生き返ったばっかの親友に対する態度かよ」
「死んでる間に鈍ったんじゃないかと心配でね。私たちは友達思いなんだ」
「ハッ!」

バチバチと睨み合いながら教室を出ていく二人の後を、あきらもしっかりした足取りで追いかけた。
ふと足を止め、苦虫を噛み潰したような顔をしている担任教師に呼びかける。

「夜蛾先生」
「……なんだ」
「今日は絶対謝らないから」

べっ、と舌を出して言ってやったが、特に怒ったような様子はない。黙っていた罪悪感のせいだろう。
そのまま廊下に出ると、早速外から呪力がぶつかり合う気配と音を捉えて、一人でくつくつ笑ってみる。七海達も呼んでやろ、と呟いて携帯を取り出した。

「えっと。今日はお祭りだよー、っと」

復活祭というやつだ。だから、高専中の人間が驚くくらいに派手にやってやろうと思った。
それで最後にいつもの通り、怒られるならそれもいい。四人が揃っているのなら、それだけで。