酒の勢いで、というやつだろうか。
飲み過ぎですよと諭す七海の言葉も聞かずに、あきらは強い酒ばかり選んで飲んで、また七海にも飲ませた。足取りの覚束なくなったところで閉店時間を迎え、スーツの端を引っ張られ、たどり着いた先はそういう場所だ。
これ見よがしなピンクの内装が、毒々しくて目障りだった。
「…………」
あきらはどうしてか、部屋に入ってからずっと床に座り込んで、ベッドに突っ伏している。
先ほどまでの陽気な笑い声はどうしたのか、無言を貫いていた。
「あきらさん」
「…………」
「寝るなら靴と上着だけでも脱いで、ベッドに入ってください」
「……」
「……それとももう寝てるんですか」
一拍置いて、「寝てない」とふてくされた声が返る。
なんというか仕方ない人だなという、今更な思いが七海の脳内に浮かんだ。ずっと前から成長しない、面倒くさくて仕方のない人だ。
ため息をついて、自分だけでも寝ようかとネクタイを緩めると、僅かな衣擦れの音に反応したあきらが火照って赤くなった顔を上げた。
じいっとこちらを見ているので、何か、と尋ねる。
至っていつも通りの反応をしたはずが、何がショックだったのか、あきらの目がみるみる涙で潤んだ。
「うええ」
自分よりも年上の女が酔っているとはいえうええと子供みたいに泣きだしたのだから、さすがの七海も少し狼狽えた。表には出さない。
座り込むあきらの近くにしゃがんで、なるべく優しく話しかけてみる。
「どこか調子でも悪いんですか?」
「悪くない……」
「じゃあ眠くてぐずってるんですね」
「ちがう」
「なら、何なんです」
「……」
また瞳がうるうると涙を湛えた。
「やっぱり私じゃそんな気にならない?」
「……は?」
口に出すと耐えられなくなったのか、あきらの目から涙がぽろぽろと落ちていく。
一瞬呆然とした七海だったが、ひとつ大きなため息をついて、指先でそれを拭ってやった。
「馬鹿を言わないでください」
「……ひっく」
「泣いてる女を抱く趣味も、酒を言い訳にして関係を始める趣味もないんですよ、私は。大事にしたい相手なら尚更です」
「……え、ということは七海は私を大事にしたい」
「そうは言ってません」
「うええん!!七海が上げて落とす!!」
ばかやろー!と舌っ足らずに言ってあきらが七海の胸を叩く。別に大事じゃないとも言ってないんですけどね、とは叩かれて痛む胸に隠しておくことにして、とりあずあきらを抱き上げ、ベッドの上に置いた。
寝てくださいとだけ言って、自分の寝床にするつもりのソファに移動する。
「ばーか!アホ!ハゲ!」
内装のどぎつさにも負けず、あきらは喚いた。
そのうち力尽きて寝るだろうと放っておく。騒がしいのはいただけないが、さっきまでの彼女でいられるよりは、たぶんずっとマシだろう。