※学生時代
少し遠くに、先輩たちの姿を見つけた。
揃っているところに出くわしていいことがあった試しがないので、あきらは咄嗟に気配を消して物陰に隠れる。
あきらの拒否反応は迅速かつあからさま過ぎて、それがどうも裏目に出た。ここ最近鋭さを増している先輩の一人に気付かれるには充分な違和感だったのだ。
「あきらー」
五条が声を張り上げる。
あきらはしぶとく沈黙し、引き続き気配を消して息を潜めた。
「三秒以内に出てこないと追い回してデコピンするからな」
「…………なんですか」
脅し文句を聞いたあきらが観念し、塀の端からひょっこりと顔を出す。あーほんとにいた、と声をかけてきた先輩にぺこっと礼をして、三人に近づいた。
「帰ってたんだね。出張だったろ」
「今日の朝に。一応お土産ありますよ、激辛煎餅」
「前から思ってたんだけどオマエそれ俺への嫌がらせなの?甘いの買ってこいっていつも言ってんだろ」
「いやそんなことは」
ありますけど、という言葉は省略しておいた。
しばらくじっとりとあきらの方を見つめた後、五条がまあいいやと呟いて諦める。
「もう一回やって」
何かしら切り替えるようなことを言って、同級生二人に向き直る。見られた二人は各々頷いて、手にペンだの消しゴムだのを持って構えた。
あきらが不思議そうに首を傾げる。
「何やるんですか?」
「まあ見てなって」
ふふん、と笑った後、家入が行くよ〜と間延びした声をかけた。少し距離を取り、オッケーと返した五条と先輩二人をあきらは見比べる。
「あ。」
次の瞬間、夏油が放った消しゴムと家入が投げたボールペンが、真っ直ぐに五条の顔へと向かう。
「……あ?」
そしてただ突っ立っているだけの五条の手前でペンが止まった。消しゴムは頭に当たって、イテッと些細な悲鳴が上がった。
「悪い」
「いいけどさぁ。で、どうよあきら」
「……どうと言われても。罰ゲーム?」
「何言ってんの?」
よくわかっていないあきらに、五条は察しが悪いな〜と楽しげに馬鹿にしつつ説明をしてくれた。
術式対象の自動選別なんて大それたものを、五条は考えついたらしい。
しかもそれを現実にしてしまった。これで不意打ちは通用しない、と得意そうに胸を張る。
あきらはうーんと考えて、少し間を空けてからなるほどと手を打った。
どうも尊敬待ちらしい五条を見る。
「先輩」
「はい高遠さん、どうぞ」
「私もやってみていいですか」
「は?いいけど」
じゃあ失礼して、とポケットに手を突っ込んで、あきらは五条に見えないように体を壁にし、いつか食べて捨てるのを忘れていた飴の包み紙を取り出した。キュッキュッと投げやすく丸める様子を、家入は面白そうに、夏油が苦笑して見ている。
そしてくるりと振り返り、行きますよ、と言って振りかぶって投げたゴミは、
五条の眉間にしっかりと命中した。
「…………」
危険もない、本当にただのゴミなので当然だ。
「うわー五条先輩すごい。ほんとに自動で判断するんですね。消しゴムのカスとか投げてみてもいいですか?気になるので」
「………………あきら」
この後高専中を追いかけ回されたあきらは、結局巡り巡って最初の地点で先輩二人の見守る中デコピンでとどめを刺された。
あまりの痛みにうずくまったあきらを見て、夏油がとうとう声を上げて笑う。五条も家入も一瞬目を丸くしてから笑い出した。
「……あきらを見てると安心するよ」
「どういう意味ですか?」
恨めしげに見上げるあきらの頭に、夏油の大きな手が乗った。