Skip to content

夏油たち

「菜々子!美々子!」

無機質な造りの教団の中にあきらの大きな声が響く。続いてきゃあっとはしゃぐ子供の声と、パタパタ走り回る音。にぎやかなそれらが、段々と自分のいる場所へと近づいてくるのに気づいた夏油は、口の端を綻ばせた。

「まあ」
「御子様方、今日もお元気ですね」
「ええ、いいことです」

薄っぺらい微笑みには同じく上っ面の微笑みで返してやる。下がっていただけますか、とにこやかに命令すれば、夏油を拝んでいた信者どもは素直に立ち上がった。入れ違いに二人の子供が元気に駆け込んでくる。

「夏油様!」
「あきらがいじめる……」
「いじめてなんかないわよ!」

抱きついてきた二人が夏油の後ろに隠れ、遅れて入ってきたあきらがすかさず否定した。
双子の反応はそれぞれ違う。菜々子がべえっと舌を出し、美々子は不満そうにぬいぐるみを抱きしめている。
少し前まで夏油以外には懐かず、大きな声にも怯えていた二人がこうして伸び伸びとした表情を浮かべるようになったことが何よりも嬉しい。夏油は二人の頭に手を置いて、それぞれよしよしと撫でてみた。

「夏油様、撫でるんじゃなく叱ってください」
「ふむ。何をしたんだい、二人とも」
「遊んでただけ!」
「なのにあきらが」
「危ないから場所を移せって言ったの!あとあんたたち、部屋の片付けしなさいって伝えといたのに信者にやらせたでしょう」
「あいつらがやりたいっていうから」
「それでもダメです」

厳しい世話係はぴしゃりと言って、夏油を見た。ずいぶん苦労しているらしい。
夏油様からも何か言ってください、と続いた言葉に首を傾げて、夏油はうーんと口籠る。

「そうだなぁ」
「わたしたちいい子じゃない?」
「夏油様はきらい……?」
「まさか!そんなわけないだろう。菜々子も美々子もとてもいい子だ」

大きな目で不安そうに見上げてくる子供たちはどうやったってかわいい。正直な気持ちを伝えると、幼い二人はぱあっと顔を輝かせたが、かわりにあきらの表情が曇った。呆れたような顔だ。実際夏油の甘さに呆れているのだろう。
こほん、と一つ咳払いをした夏油が再び口を開く。

「でも二人とも、あまりあきらを困らせてはいけないよ。彼女も忙しいんだ。頼んでいることもある」
「え〜〜」
「あきらだって二人のために言ってるんだよ」
「でも、でも……」
「あんまり怒らせるといなくなってしまうかもしれないし」
「えっ!」

途端によく似た顔が揃って驚いた表情になった。
頭に乗った夏油の手が価値をなくし、二人は慌ててあきらの方に駆け寄る。ごめんなさい、やだぁと声に水気が混じり始める。夏油が笑った。

「……別にいなくなったりはしないけど」

困った顔のあきらが駆け寄ってきた二人の頭に両手を置いた。ほんとに?と念を押す美々子に頷いてやっている。
その様子はまるで、本物の家族のようだった。