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五条はあの子が好き※

嫌いな後輩がいる。
要領の悪いところが嫌いだ、運動神経が悪いところが嫌いだ、二級呪霊にも手古摺るくらい弱くて、いつも守られてばかりのくせに、はやく一人前の呪術師になりますときっぱり言える前向きなところが嫌いだ。

「……ホント嫌い」

練習場で的に向かって、打ち込みをしている姿を見た。
へっぴり腰を見るに、その自主練が成果に繋がるかは怪しいところだ。そういう無駄なことを、未来を信じてやれるところも嫌い。
また新しくできた理由を数えながら呟いたあきらに、隣を歩いていた五条が呆れたような目を向けた。

「またぁ?あきら、後輩イビリも程々にしろよ」
「あんたが言う?」
「なんでだよ。俺はいつもかわいがってるだろ」

頑張ってんじゃんアイツと五条は言う。あの馬鹿な後輩より、隣にいるあきらよりもずっと高みにいる五条が。きっと差がありすぎて、あきらも後輩も大して変わらないのだろう。
あきらは眉根を寄せて、馬鹿は嫌いとはっきり言った。

「自分の努力が無駄じゃないって信じてる馬鹿さが嫌い」
「マジで根暗」
「うるさい」
「はは」

何がおかしいのか五条が笑った。その顔に絆されそうになって、必死で表情筋を押さえつける。そんなあきらの努力も知らないで、五条が行ってくる、と言った。

「……」
「傑に会ったら言っといて」
「知らない」
「ったく」

お前はホントにかわいくないよな、と呆れたような声が聞こえた。同時に頭を上から押さえつけられる。ぐりぐりと撫でられているのか虐められているのかわからないそれをなんとか振り払い、あきらが眉を吊り上げて怒った。

「五条!」
「ハハ!じゃーな!」

笑いながら走り去る五条は一直線に、あきらの嫌いな後輩の元へ向かう。あきらはそれを見ているだけだ。

「……五条」

もうすぐあの子は突然現れた五条に脅かされて、あきらにはできないかわいい悲鳴を上げ、大げさなまでに驚くのだろう。それを見て五条はきっと嬉しそうに笑うのだ。
まぶたの裏にさっきよりもずっと幸せそうな、五条の笑顔が浮かぶ。
胸の奥にどす黒い何かが渦巻いた。あきらの体の中で、それはぐるぐると終わりなく循環する。

「……大っ嫌い」
 

とかく恋は恐ろしい。
結局はそういうことだ。
 

吐き捨てた言葉を咎めてくれる人間はもう、あきらのそばにはいなかった。