※学生時代
「………………」
「………………」
一体何が駄目だったのか。最近雨降ってないし花壇の土がカラカラだし花がなんか萎れてる気がするから水やりしようと珍しく善行を働こうとしたのが駄目だったのだろうか。ならばもう二度といいことなんてするまい。
「………………あきら」
「……はい」
ずぶ濡れの五条があきらを見て綺麗に微笑んだ。相変わらず雑誌のモデルでもできそうな顔面だ。鬱陶しそうにかき上げた髪が太陽の光を反射して、キラキラと光っている。滴がポタポタと地面に落ちた。
「何か言うことは」
別にそんなつもりはなかったのだ。あきらはただ水がなくて困っているだろうお花さんや雑草さんにお水をあげたかったのだし、そうして喜んでまた綺麗な花を咲かせて欲しかった。如雨露に水を汲むのを面倒がってホースを持ってきたことは確かに悪かったかもしれないし、花壇の方にホースの口を置き、勢いよく蛇口を捻るなんてことをしたのももしかしたら悪かったかもしれない。でも誓って、花壇の近くを偶然五条が通りかかるとは予想していなかったし、まさかいつも無限だの夢幻だの言って何もかもを弾く先輩が大人しく水を盛大に被るなんて、そんなことは
「あきら」
もう一度名前を呼ばれ、あきらは神妙な顔をしてはいと返した。見上げた顔はまだ綺麗に笑顔の形を作っている。こわぁ、とあきらは内心で震えた。
「……すみませんでした」
「うん」
「でもあの、本当に悪気があったわけではなくてですね」
「へえ」
「……よっ!水も滴るいい男!!」
「…………」
「……」
滑った。場を和ませようと必死で出た言葉は逆に五条を怒らせたらしい。ピキッと立った青筋を認め、あきらは反射的に背を向ける。逃げ切れないとはわかっていても、逃げてしまうのが生き物としての本能だ。
肩をがっしりと掴まれ、あきらは息を詰めた。
「あの、ほんとすみませんでした」
「うんうん」
「ほら拭かないといけないので、私タオルとか……その……」
「まあまあその前にさぁ」
「へ」
「あきらもきっちり濡れていけよ」
笑顔の先輩は言ったのを聞き、あきらはとっさに駆け出した。
「待てコラ!!」
「いやでっ、うわぁ!!」
五条が引っ掴んだホースから飛び出した水があきらを襲う。長さに限りがあるから逃げ切れば勝ちかと思いきや、結局術式で無理やり引き寄せられたりもしたせいで、あきらは最終的に五条と同じくずぶ濡れになった。
「先輩ひどい……」
「ひどくねぇよ。当たり前の対応だろ」
花壇の花もとばっちりでこれでもかと水を浴びたので、当初の目的は果たされたものの、あきらはちっとも嬉しくなかった。