※学生時代
「どっか行けよ」
拒絶の声には力が入っていなかった。
石段の上に一人腰掛ける五条の背中に一瞬怯み、あきらは足を止める。唇を噛み、どうすればいいか迷って、それでも足を踏み出した。
足音を立てて階段を降りる。五条の座る段に立つ。
「……どっか行けって」
「嫌だ」
「…………」
自分よりも遥かに強いとわかっている人間に逆らうのは、それなりに勇気がいることだ。
当代最強と目される呪術師は今とんでもなく不機嫌で、隣に立つあきらの方を見ようとしない。
滲み出る呪力は確かな威圧感を以って、あきらに拒絶の意思を伝えている。
けれど。
「どこにも行かない」
どんなに強かろうが偉かろうが、それ以前に五条悟はあきらの同級生だ。どれだけ実力の差があっても、机を並べて、同じ時を過ごした仲間だった。
穏やかな、それでいて決意の篭るあきらの言葉に、五条が深い溜息を吐く。あきらは構わず、その隣にちょこんと腰を下ろした。
「……傑と会った」
「うん」
「色々言われた」
「……そう」
ぽつりぽつりと話す。夏油に何を言われたのかについては、言うつもりはないようだった。
「——何も言い返せなかった」
虚しそうに呟いた相手に、かける言葉は見つからない。たとえ何を言ったところで、全部間違っている気がする。あきらはゆっくり瞬きをして、正面を向いた。
五条は置いていかれてしまった。もしかすると逆なのかもしれないが、どちらにせよ、道は完全に分かれてしまった。あとは離れていくばかりで、もう二度と、二人が交わる事はない。
「あきら」
どこか遠くを見ている五条に、ふと名前を呼ばれた。
なに、と尋ねるついでに五条を見る。横顔は頬杖をつく大きな手に隠れ、表情は窺えなかった。
迷うような沈黙が流れる。じっと言葉の先を待った。
「…………やっぱ、そこにいて」
やっと続いた五条の声には、最強の影なんてどこにもない。まるで迷子の子どものような、とても寂しい声だった。