※学生時代
五条の部屋は暗かった。
遮光カーテンの隙間から漏れるわずかな光だけが、曖昧に今の時刻を示している。
あきらはため息を一つ吐き、自分の部屋と似たような位置にある電気のスイッチに手を伸ばした。
パチン、と軽い音がして、部屋が一気に明るくなる。
「五条」
「んん」
呼びかけるとくぐもったような返事があった。
五条の部屋のベッドはあきらの部屋にあるものよりもずっと大きい。体格にあわせているのだろう。
その上に大の字になって寝転がる五条は、何かの本を顔の上に乗せていた。
よく見れば周りにも本が散らばっている。和綴じの、年代を感じさせるものだ。題名は崩したような昔の文字で、あきらには読めない。
「……何コレ」
「本」
「それは見ればわかる」
「実家から送って貰った」
「……だから」
だからそんなことが聞きたいのではないと、重ねて言おうとしたあきらに被せて、「呪霊操術についてのやつ」と五条が続けた。
あきらは口を閉じた。
丸っきり同じじゃないだろうけど、と五条が付け加える。
「前にさあ、傑に聞いたことあんだよね」
「……」
「呪霊ってどんな味すんのって」
「…………あいつ、なんて?」
「『味なんてしないさ』って」
笑ってた。
夏油の笑顔を思い出そうとした。
最後に見たのなんていつのことだったろう。記憶の中の夏油の顔はぼやけて、曖昧で、本当にそんな顔をしていたのかもよくわからなかった。一緒に笑ったことは何度もあったのに、そのときの夏油の笑顔が本物だったのかさえ、今のあきらにはもうわからない。
「——そんなわけないのにさぁ」
あいつ馬鹿だよなあと五条がしみじみ言った。あきらは無言で頷いた。見えているのかいないのか、「そんで嘘つき」と五条は続ける。
「……うん」
「あきら」
よいしょ、とかけ声と共に起きあがった五条が胡座をかいた。本がバサバサと音を立てて落ちる。素のままの青い瞳は真っ直ぐにあきらを射抜いた。
「お前はちゃんと言えよ」
「……」
「返事」
間を置いた後、こくりと頷く。
五条は目を細めて、満足げに笑った。その表情は今まであきらが見てきたものと同じようで、やっぱり違う。
「で、なんか用?」
「……夜蛾先生が呼んでた。こないだの五条の報告書出し直しだって」
「げっ」
五条が苦虫を噛み潰したような顔をした。
「適当にやるからだよ」
まだ少し痛む胸を無視して、あきらはあははと笑って見せた。