呪術高専はその名の通り呪術を学ぶ場だ。受ける教育はほとんどそちらに偏るけれど、普通の教育機関でやるような一般教養についても最低限の授業がある。とは言っても重視はされないので、学生によっては放棄している者もいるらしいが、根が真面目なあきらは素直に毎回課題を提出していた。
今日も期限を明日に控えたプリントを手に持って、担任の五条がくつろいでいるだろう、職員室と呼ぶにはゆるすぎる待機室に向かう。
「いやーホント、一年ってあっという間だよ」
少し開いた扉の隙間からは五条の声が漏れていた。どうやら話の最中らしいと悟って、あきらは入るのを躊躇った。
「気がついたら年取ってるし。聞いてるか七海ィ、オマエも油断してるとすぐ三十路だぞ、今も三十みたいな顔してるけどさ」
「余計なお世話です。アナタはいい加減年に見合った振る舞いを身につけてください」
「はあ〜?つけてますゥ〜」
「普通の大人は誕生日だからと言って人を無理矢理呼びつけたりしません」
「え」
「ん?」
いきなり割り込んでしまったあきらの声に、五条が不思議そうな声を出した。しまった、と思うけれど後の祭りだ。扉の外で口を押さえていたら、こちらに近づいてくる気配がして、扉がガラリと開く。五条があきらを見つけて、「どうしたのこんなとこで」と尋ねた。
「プ、プリント出しに……」
「ああ、はいはい」
あきらは真面目だねえと笑いながら、五条が差し出したプリントを受け取った。用を終えても突っ立ったままのあきらを見て首を傾げる。
「どしたのあきら。なんかあった?」
「せ、先生……誕生日なの?」
そうだよ〜といつも通りのおちゃらけた口調で肯定される。あきらはますます慌てて、とりあえずポケットの中を探る。せめて飴か何かがあればいいと思ったのだが、ゴミさえ見つからず、しゅんと肩を落とした。
「あきら?」
目隠しがなければ目をぱちぱちと瞬かせるのが見れたかもしれない。説明を求めるような呼び方をされたあきらが、歯切れ悪く口を開いた。
「その、知らなくて」
「まあ言ってないしね」
あっけらかんと言い切る五条に向かい、あげるものなくて、と申し訳なさそうにあきらが続ける。
前に自分の誕生日を五条が祝ってくれたことをあきらは思い出していた。先生だから生徒の情報は知ってるよと笑いながら、五条とあきらは二人きりの教室で、五条が買ってきてくれたケーキを食べたのだ。あの時あきらはとても嬉しかったのに、あきらには五条に返せるものがない。
ごめんなさい、と言いながら顔を上げると、五条の口元が嬉しそうに笑っていることに気がついた。それからすぐにあきらの頭の上に大きな手のひらが乗り、ぐりぐりと力任せに撫でられる。わあ、と驚いたあきらをよそに、五条はあははと声に出して笑った。
「いいんだよ」
とても優しい声が降る。
「あきらからはいつもたくさんもらってる。君が毎日成長して、一人前に近づいてることが、僕は一番嬉しい」
「……」
いつもの適当な態度からは信じられない、ちゃんとした大人みたいな言葉だった。
あきらはつい口を閉じて目を見開いた。目の前の五条をまじまじと見つめる。
「……そんな人格者のようなことも言えるんですね」
驚いたのはあきらだけではなかったらしい。
部屋の中、ソファーに腰掛けていた男性からそんな声がかかった。五条がばっと首だけで振り返る。
「んだと七海!」
「失礼、つい」
途端にいつもの調子に戻った五条が面白くて、あきらはちょっと笑ってしまった。