駅には呪霊が湧きやすい。
人口の多い都市では特にだ。毎日毎日会社や学校に行きたくない人々の憂鬱の受け皿になり、時々人死にも出さえするこの場所には、強力とはいえないまでも、無視はできないレベルのものが不意に生まれて来たりする。
今日は見回りの仕事だった。普段は人で埋め尽くされているだろう無人の駅の構内を、五条と二人で練り歩く。
上の階から順に確認しようという話になっていた。しばらくそれなりの範囲を歩き回った後、あきらは五条を見た。
「いる?」
「いねー」
つまらなさそうな顔でため息を吐いて、五条が答えた。
あきらよりずっと感知に優れている五条がそう言うならば、この階にはいないのだろう。
じゃあ下へ行こうと促すと、五条はやっぱりつまらなそうにおーと語尾を伸ばし、二人でエスカレーターのある場所まで歩いた。
着けてもらっているのは照明だけで、その他の機能はだいたい停止している。エスカレーターも今はただの機械でできた階段で、それがまた面倒臭いと五条は不満のようだった。
「あっ」
「なに?」
「いいこと思いついた」
五条があきらにニヤッと笑いかける。
先降りてと言われたので首を傾げながら降りきると、離れてろよと声がした。
その後。
シャア、と何かが擦れる音がする。それなりのスピードで手すりの上を滑ってきた五条が最後にぴょんとジャンプして、危なげなく着地した。
「結構楽しいな」
「…………」
「んだよその顔」
ぱちぱちと瞬きをしながら五条が言う。別に、とあきらは返した。遊びじゃないんだと注意する気力もない。
踵を返して歩きだしたあきらを五条が追いかけてくる。
「あきらもやってみろって」
「私はいい」
「あっわかったできねぇんだ。オマエどんくさいからな」
「…………」
むっとして五条を見つめたが、反論はできなかった。言われた通りあきらは高専の他の生徒に比べるとどんくさいかもしれないし、何より少し臆病だ。できるとわかっていないことをやるには、いつも少し勇気がいる。
五条が笑った。
「来いよ」
「は?」
「一回やったらできるようになるだろ」
二の腕を掴まれた。ぐいぐいと抵抗する暇もなく引きずられ、呪霊探しはどこへやら、五条はまた止まったままのエスカレーターを探し出す。結構開けた場所の、大きな階段の横のエスカレーターだった。ここでいいやと言いながら、びっくりしているあきらをひょいっと抱え上げる。
「ええっ!?」
「捕まっとけよ」
そこからはあっという間だった。
あきらを横抱きにした五条が手すりの上を滑り降りる。ジェットコースターに乗っているような風が頬を叩き、終わりが近づいた頃にジャンプして、またすんなりと着地した。
「な?」
楽しそうに五条が笑いかけてくる。その顔がずいぶん近くて、あきらは慌てて手を突っ張った。
「やっぱり私はいい」
「は?なんで」
「向いてないから」
どこか不満げな五条から離れ、咳払いを一つすると、あきらは上に戻るよと声を掛ける。まださっきの階の調査は終わっていないのだ。
渋々ついてくる五条を従え、階段を上りながらあきらはさっきのことを思い出した。進んでやりたいものではないが、少しだけ、清々しい気持ちだった。