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夏油の妨害

妨害は無し。呪霊の捜索、掃討に力を尽くす。

本年度の団体戦の方針として打ち出されたそれに反論を加えるものは、誰一人としていなかった。
何しろ相手が相手だ。五条悟、夏油傑と東京校の二年には学生にして特級の名を冠する規格外が二人も存在していて、真っ向からの勝負ではこちらに勝ち目がない。去年の苦い思い出を噛みしめつつ、今年は同じ轍を踏むまいと決めた同期の判断は正しかった。

というわけであきらたちはとりあえずいくつかの班に分かれて、東京校敷地内の森を歩き回っていた。
索敵を担うものに一番に求められるのは特級二人含む東京校のメンバーの気配を察知して回避すること、第二にこの森に放たれている二級呪霊を捜し当てること、最後にその他雑魚を捉えることである。

「……おかしいですね」
「……」

おそらく三級あたりと思われる雑魚呪霊を祓った後輩が、怪訝そうに首を傾げた。言いたいことも違和感もあきらにはわかる。さっきから自分もひしひしと感じていることだ。

「呪霊、多くありませんか?」
「……そうだね」

呪霊の数が多い。
さっきから見つけ次第祓ってはいるけれど、明らかに昨年や一昨年と比べてその数が多すぎる。たまたま自分の班が多く見つけているだけかと思ったが、それにしては違和感が拭えない。放たれた呪霊には主催側で小細工がしてあるはずだが、その気配もなかった。

思い当たる原因は、ある。

「……予定変更」
「え?」
「ちょっと心当たりがあるから、行ってくる。あんたは近くの他の班と合流して、呪霊探し続けてて。東京校のやつらには見つからないようにね」
「はい?先輩?」

腑に落ちていない様子の後輩に説明している暇はない。あきらはある種の確信を抱いている。腹の底からふつふつと沸き上がる苛立ちを押さえ込み、足場の悪い森の中を駆け出した。
 

**
 

「ああ、高遠さん。お久しぶりです、元気でしたか?」
「……あんたねえ」

森を駆けながら気配を探り、捜し当てた先には目的である夏油がいた。五条の姿はないから別行動のようだ。正直なところそれは助かる。
大岩にゆったりと腰掛けていた夏油は、眉間に皺を寄せたあきらを見てにっこりと笑う。いつもならいざ知らず、今のあきらにはそれは挑発に映った。ひくひくと口の端をひきつらせながら、引っ込めなさいよと命令した。

「何をです?」
「とぼけんな。雑魚呪霊森に撒いてんのあんたでしょ」

夏油傑の術式は呪霊操術だ。
取り込んだ呪霊を意のままに操る。出す呪霊の数にどうやら制限はないらしいと、あきらは今この場で知った。
夏油はおそらく、高専の教師たちが用意した呪霊を遙かに上回る数の呪霊を、今この森に放っている。あきらたちが狩っていたのはそれだ。当然ながら団体戦のポイントにはなっていない。

「腹立つ妨害しやがって」

口悪く言い捨てたあきらを面白がった夏油が、ルールは破ってませんよと楽しげに言った。

「高遠さんたちがあまりにも私たちを避けるので、寂しかったんです」

つまらなくての間違いだろう。

チッと舌打ちをしたあきらが、背に背負ったホルスターから呪具を抜き取る。方針からは外れるが、誰かがこいつをどうにかしないと呪霊が引っ込まないのだから、これは仕方がないことだ。へえ、と夏油が目を瞠った。

「相手になってくれるんですね」
「私が勝ったら引っ込めて」
「いいですよ。おかげで退屈しなくてすみそうだ」

岩から降りた夏油がゆったりと構えを取った。
つけ込めるような隙は、当たり前ながらない。
これだから東京校の連中は気に入らないんだとごちながら、あきらは一歩を踏み込んだ。