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反抗期五条

※五条中二くらいです。全部捏造

 

五条本家の大きな門の前を、掃き清めるのがあきらの朝の習慣のひとつだ。
犬の散歩をしながら通り過ぎる老人に挨拶をしたり、家から出る者にいってらっしゃいませと声をかけつつ箒を使う。しゃがんでちりとりにゴミを入れながら、もうそろそろか、とちょうど思った時、「行ってくる」と通り過ぎる慣れた声を聞いた。

「行ってらっしゃいませ、悟さ……」

と言いながら顔を上げたあきらは、そのまま中途半端な姿勢で固まった。中学校の制服を着た自らの主、五条家の宝、その姿をぽかんと口を開けた間抜けな表情で見つめている。
ただしそれは一瞬のことで、あきらはすぐに我に返って、学校へ向かう主が持つ鞄の持ち手を素早く掴んだ。何だよ、と少年が怪訝そうにあきらを見ている。

「悟様」
「なに」
「ベルトを……お間違えかと」

あきらが驚いたのは少年の格好である。
カッターシャツのボタンがいくつか開いているのはいつものことだからいい。まだまだ成長途中の体には息苦しいということもあるのだろう。
だがその、よくわからないくらいに下げて腰で履いたズボン——所謂腰パンは、よろしくない。
この少年の世話は幼少より、基本的にあきらが任されている。今日もいつも通りの用意を部屋に置いてきたつもりだったが、何か間違えたのだろうか。

悟様と呼ばれた少年は眉を上げて、「ハア?」と反抗的な目つきであきらを見た。

「間違えてねーし」
「ですが……」

言い募ろうとするあきらに、一層鬱陶しそうな青い眼を彼は向けてきた。

近頃あきらの主は反抗期なのだ。
昔はあきらあきらと仕事の邪魔になるほど後ろをついてまわった少年は、いまやあきらの言うことを聞くどころか舌打ちをするし、面と向かって刃向かったりもする。
自分が悪いのかと思って人に相談したり、子供やペットの育て方について書いた本を読んだりもしたが、大体は時が解決するから放っておけと言う。
なので最近は好きにさせてはいる、のだが。
ちょっとこれは。世話を任されている者として。

「み」

みっともないですよ、と言い掛けて、あきらは口を噤んだ。小さな頃から面倒を見ている、整った顔を見る。
あ?と不機嫌に首を傾げた少年に見下ろされたあきらは、こほんとひとつ咳払いをしてから口を開いた。

「悟様」
「だから何だっつの」
「そういった着こなしが流行っているというのは、私も存じておりますが」

文句を言われると悟ったか、むっとした口元を無視するように、あきらは言葉を続ける。

「よろしいですか。それは足の短い方が、なんとか長く見せようと努力の一環としてするもので、悟様のような方がなさる必要は全くございません」
「……」
「飾らない、というのはごまかさないということでもあります。悟様はそのままで充分魅力的です。いつもの通りが一番お似合いだと、私は思います」

言いながらちらりと、あきらよりも随分背の高くなってしまった顔を盗み見た。
沈黙しているからまた口を出されたことに怒っているのかと思いきや、主は目を丸くしてあきらを見ていた。ぱちぱちと大きな目が瞬いている。

「……悟様?」
「あきら、いつもの俺の方が好き?」

その表情が、こうして反抗期に入る前を彷彿とさせる子供然としたものだったので、あきらはこれは行けると確信する。ええ、とできるだけ真面目な顔で、力強く頷いてみた。

「いつもの悟様の方が、格好いいし好きですよ」
「…………ふーん」

素っ気なく呟いて、主は歩き出す。悟様、ともう一度呼びかけたが、「学校遅れる」と言われてしまえば食い下がることもできない。
ハア、と説得に失敗したあきらが肩を落としても、彼は振り返らなかった。
 

**
 

主がいつも学校から帰ってくる時間帯、門の前を掃き清めることも、あきらの習慣のひとつである。
「ただいま」と、今朝も聞いた声がそばを通り過ぎた。

「おかえりなさいま……」

顔を上げると、彼は朝とは違い、制服のズボンを腰でだらしなく履くことをやめていた。昨日までと変わらない、いつもの姿だ。

「…………」

目を瞬かせたあきらがまた固まっていると、年下の主はどこか拗ねたような顔をして、「こっちの方がいいって言ったじゃん」とそっぽを向いた。