※学生時代
小さな体だった。
同級のあきらと共に踏み込んだ室内には、行方不明と聞いた子供が倒れ伏している。
子供の体にはところどころ抉れたような穴が空き、そこからどくどくと赤黒い血液が絶えず流れ出していた。奇妙な音の混じる呼吸は荒く、時々いたい、とか細い声で泣いている。
助かる怪我ではなかった。
反転術式にだって限界はあるのだ。ましてやここに術者はいない。
「……」
ならば、と武器を握り直し、一歩踏み出した七海の隣を、高遠あきらが追い越した。彼女はあっという間に、子供の体のそばに立つ。
蹲み込んだ次の瞬間には術式が発動し、遠からず訪れるはずだった命の終わりを早めた。呼吸音も高い声も聞こえなくなり、七海は思わず目を逸らす。
「七海は駄目」
開いたままだった瞼を閉じてやりながら、あきらは言った。
「……どういう意味です」
「んー、そのまま。わがままみたいな」
「誰の」
私のだよとあきらは言う。七海は唇を一度噛んでから問うた。
「高遠さんは……」
あなたはいいんですか。
あきらは少し間を置いてから、落ち着いた声で肯定した。よいしょと勢いを付けて立ち上がり、七海を振り返っていつものように笑う。
きっと初めてではないのだろう。
それがどんな状況だったのか、七海にはわからないけれど、あきらは前にも人を殺したことがある。
この道を歩むなら、自分もいつかやらなければならないことだ。
「灰原もだよ。だから、今のは内緒にしてね」
背の高い七海の肩をぽんと叩いて、あきらは部屋を出て行った。
待ってください、と踵を返して追った背はどこまでも凛として、七海の先を歩いていた。