Skip to content

足りず届かず※

※93話を読んだ勢い

 

後悔するぞ。

憎悪を込めた一言を置いて、二人でひとつの双子は、まだ呆然と立ち尽くしている一般人の影に紛れて消えた。
あの二人にできることなど、所詮ああして吠えるくらいだ。ここまで自分の要求を大人しく聞くしかできなかったことからも充分わかる。いざとなったら殺せばいいだけだったし、そこに煩わしさはあっても、躊躇いなどは欠片もない。

「さて」

獄門疆を前に座り込み、未だ動かせそうにないそれを見守る。

足音が聞こえた。

奇妙に静かな人混みを縫うように擦り抜けて、高専の制服を着た少女が歩み寄る。かつての夏油のように優しげに笑いかけて、「君も恨み言かい」と問い掛けた。

彼女も——あきらもあの双子と同じだ。協力の代わりにこの体をと、縛りではなく『約束』と、曖昧に微笑んだ自分に、半ば一方的に言った。

——夏油様の体を返せ。

——役に立てば、夏油様の体を返してくれますか?

全く揃いも揃って、彼女たちは似たようなことを言う。
獄門疆を挟み、憎い男の前に立ち止まると、あきらは「別に」と答えた。

「じゃあ殺されに?」
「いいえ」
「なら、まだ私が彼の体を返すと信じて、協力を続けるつもりかな」
「…………」

少し間を置くと、あきらはゆるゆると首を横に振った。赤い唇が開いて、ぽつりと独り言のような、小さな声が滑り出た。

「……夏油様の体に、これ以上傷ついてほしくないから」

へえ、と頷いてやる。つまり護衛をしてくれるということらしい。勿論隙あらば、ということはあるだろうが。

「それはありがたい」

くつくつ笑うと、少女はふいっと目を逸らした。
獄門疆に視線を落とす。自らの裏切りの結果を見つめる顔は、少しの憂いを帯びている。

「……五条先生」
「答えやしないさ」

封印はとうに完了しているのだから。

茶々を入れられたあきらは視線を上げて、こちらを見た。
にこりと笑ってやると、一瞬傷ついたような顔をする。迷うように数度、唇を動かして、それからようやく、かすかに開く。

「——夏油様、」

祈るように呼ばれたのは、当然ながら自分ではない。
しかしそれを聞いたはずの彼の体は、残念なことに、彼女の声には応えなかった。

「ハハ、……なるほどね」

残ったわけはこれだろう。
彼女が何を夢見たのかは、すぐにわかった。
五条の呼びかけに体が応えた、その奇跡を、彼女はもう一度欲している。
こんなにされても、夏油傑がどこかに残っていると、きっと信じたいのだろう。

口の端をにいいと持ち上げる。

「残念」
「…………」
「君では足りないみたいだよ」

きちんと傷つけるための台詞を吐くと、少女は男の思惑通り、唇を強く噛みしめてこちらを睨んだ。