※学生時代
「寒ィ」
そりゃそうでしょうよ、とあきらは思う。鼻の頭を赤くして、恨めしげにこちらをじいっと見てくる先輩はめちゃくちゃ薄着だ。自分の体を抱きしめてカタカタ震えている五条は高専の制服しか着ていない。マフラーも手袋もコートもなし、コートこそ着ていないが汚れるのを覚悟で色々装備し、貼るカイロにセーターにと中にも着込んでいるあきらと比べると、見た目からしてもう寒い。
ここまで来る車内では平気そうにはしゃいでいたので、学ランの下にカーディガンでも着ているのかと思っていたが、そうでもなかったらしい。中に着込むと動きにくくなるだろ、ともっともらしい言い訳があった。
「どうして何も用意してこなかったんですか」
昨日、共用スペースのテレビで見た天気予報では、今日は今年最大の寒波が来るとか言っていた。この人だって見ていたはずなのに、と目を向けると、不機嫌全開の五条が「忘れてた」と短く答えた。
はあ、と呆れてため息を吐く。
「……あきら」
「嫌です」
「なんか一つ貸して」
「嫌だって言いました」
こっちは寒さに弱いのを自覚しているからきっちり用意したのである。何一つとして五条に奪われる理由はない。
突っぱねると青い目を細めて、無言で不満を訴えてくる。
気温に負けず劣らず冷たい後輩をやっぱり恨めしそうにしばらく見ている間に、上空から付添の補助監督による帳が下りてきた。視覚的には遮られていても、どういう原理か空気や風は通しているようだから、感じる寒さに違いはない。頬には依然として冷たい風が吹き付けている。
くしゅん、と意外とかわいらしいくしゃみが響いた。
「……とっとと終わらせて車戻る」
「そうしましょう」
諦めて呪霊の気配に向かい、足を踏み出した五条の後を追いかける。
「風邪引いたらどうしてくれんだよ」
足早に進む五条はまだぼやいている。
その時はリンゴでも剥いてあげますよ、と往生際の悪い先輩に向かって、あきらは適当に答えてやった。