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気持ちがわかる夏油

※学生時代

 

後輩の様子がおかしい。

夏油は親玉、あきらは周辺の雑魚をという分担の上で、実習を終えた後のことである。
待ち合わせ場所としていた大木の前に随分遅れてやってきたあきらは苦虫を十匹ほど集めて噛み潰したような顔をしていた。
どうしたんだい、と問いかけると歯切れ悪く、うう、と唸る。怪我でもしたのかと思って眺めてみるが、少し制服が埃っぽいくらいで、血の臭いはしない。武器もしっかり持っている。

「あの、夏油先輩」

あきらは夏油の心配には気が付かないらしく、眉を思いっきり顰めて辺りを見回していた。

「うん?」
「……ここ、自販機って、ないんですかね?」
「ないんじゃないかな」

あきらの問いかけに、夏油は首を傾げた。

「中学校や高校ならあるだろうけど。小学校だしね。喉が乾いたのかい?」
「う……いえ、そういうわけじゃないんですけど」

あきらはうえっと顔を歪めて喉を押さえた。実は、と言いにくそうに切り出したので、先を促すように頷いてやる。眉間の皺を深くしたまま彼女は続けた。

「さっき呪霊囓っちゃって」
「…………なんだって?」

聞き返すとあきらがもう一度、呪霊を囓ってしまってと同じようなことを繰り返した。
聞こえなかったわけではないから見当はずれだ。
じゃあなんだろうと言いたげに首を傾げた後輩に、どうしてそんなことに、と尋ねる。

「両腕取られちゃったんですよ。動けなくて。武器も届かないし」

私の術式攻撃に向かないし、とぶつくさ言って、あきらは口をへの字にした。

合流が遅れたのはそのせいだったらしい。拘束され呪具も取れず、呪霊もそこから下手に動こうとはしないしで膠着状態が続いて、業を煮やしたあきらが武器として使ったのがそれだったのだと言う。腕に巻き付いた蔦のようなものを噛みちぎり、自由にした腕で呪具を掴んで祓った、と経緯を語った。
そして。

「すごい味がしました。二度と囓りたくないです」
「…………」

真剣な顔で話を結ぶ。
夏油は思い切りのいい後輩の体験談にしばらくの間目を丸くした。

「…………夏油先輩?」

突然黙りこくった先輩に向かって、あきらが怪訝そうに呼びかける。

もう駄目だった。

「…………フフッ」

肩を震わせ、小さく吹き出したかと思うと、ハハハ、と明るい笑い声がすぐに続いた。

「夏油先輩!!?」

豪快に笑い出した先輩に驚いたらしく、ぽかんと口を開けていた。

「そんなに面白いですか!?」
「ははっ、いや、すまない」

呪霊の肉を噛み千切るなんて、思い切ったことをする人間もいたものだ。
少なくとも夏油は初めて聞いたし、帰って五条や家入にでも教えてやれば、きっと面白がるに違いない。

大変だったね、と声をかけると、あきらは大変でしたけど!?と勢いよく答えた。どうやら笑っている夏油に腹を立てているようだ。

こちらを睨んでむくれている後輩の肩を、夏油は宥めるように軽く叩いて歩き出した。「ついておいで」と優しく言ってやる。
怪訝そうな眼差しのせいでまたこみ上げてきた笑いをなんとか押し殺して、咳払いをひとつ。

「向こうに水飲み場があったはずだよ」

教えてやれば、あきらが目を丸くして水、と呟いた。

「ああ。要は濯ぎたいんだろう」
「……はい!」

さすがに肉を直接かじったことはないけれど、いつも夏油が味わっているものとあきらの抱いた不快感は、おそらくそう遠いものではない。笑いながら、濯ぎ終わったらガムがあるよと付け加える。

「やったー!さすが夏油先輩!」

先程の怒りはどこへやら、夏油の提案に目を輝かせた後輩を見て、夏油は一層愉快な気持ちになった。