ここ数年肉体の欠損を伴うような怪我もなかったし、そもそも人手不足とかで実家の方に戻っていたので顔を出すのは京都校ばかりだった。
加えてまめに連絡を取り合うような性格でもお互いなかったので、高専の同期である家入硝子と顔を合わせたのは実に四年ぶりになる。
その再会でさえ、「久しぶり」「ああ、久しぶり」と、お互い一言ずつで会話が途切れた。淡泊なのだ。
同じ寮で過ごした四年近くだって、あきらたちはちっともベタベタしていなかったし、どちらかというとそういうのは男連中が担当していた。
一人と一人。時々気が向いたときだけ二人になって、短く言葉を交わしあう。そんな感じだったと思う。
「座ったら?」
そういうと立ち上がって、家入は食器棚からマグカップを取り出した。コーヒーを煎れてくれるらしい。
薦められた通り椅子に腰掛けて、あきらはすっかり彼女の領域となっている医務室の中を見渡した。主人が違うせいか在学時とは様子が大きく違っていて、なんだか落ち着かない。
「最近どうよ」
「最近のスパンが長すぎないか?」
「いいでしょ。変わったことあった?」
「あー……」
少し手を止めて考えた後、「禁煙してる」と家入が言った。
嘘だあ、と思わず子供のような声が出た。
長いつきあいなのだ。
寮の屋根に登って、喪服みたいな制服のままタバコをくゆらせる家入の姿は今でもはっきりと覚えていたし、風に吹かれて靡く髪がきれいだったことも、注意する度煙を顔に吹きかけられそうになるからとうとうなにも言わなくなったことも、今ではいい思い出だった。
「ほんとほんと。最近ではないけどね」
「えーいつから?」
「四年前」
「マジじゃん……」
友人の意外な忍耐強さにあきらはびっくりした。人間四年も会っていなければ変わるものらしい。
あきらの方はといえば、学長に用があってわざわざ京都から来たのに外出中らしいこと、同期の五条悟がちゃらんぽらんに教師をやっているところを見て爆笑したこと、気の強そうな女生徒に何かあのバカ目隠しの弱みはないかと真剣な顔で聞かれたことなど、話し出してみれば話題は結構あった。
久しぶりに母校で友人に会って、舞い上がっていたのもある。
「……高遠さん、ここにいましたか」
おかわりしたコーヒーを飲みきったくらいに、やっと伊地知がやってきて、学長の帰りを知らせてくれた。
すっかりくつろいでいたあきらはおーとこれまた久しぶりに見る後輩を適当に出迎えて、席を立つ。
「じゃあ行くわ」
「ああ」
コーヒーの礼を言って立ち上がったあきらに、最後にひとこと、
「死ぬなよ」
と声がかかった。
「頑張る」
あっさり返して、あきらは伊地知の後に続き医務室を出る。お二人とも相変わらずですね、と言う後輩は、なぜか少し呆れたような声をしていた。