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すぐはぐれる五条

※小学生の五条と世話係

 

後ろをついてきていたはずの子供の気配が、不意に離れた。
どうしても買い物に一緒に行くと言って譲らなかった幼い主に、なら絶対に私から離れないでくださいねと約束をしたのが出かける前。あきらははあと深いため息を吐いて、足を止めた。行き交う人の群れを逆走して、目立つ姿を探す。
見つけるのに大して時間はかからなかった。
青い目を見開き、近くのビルをつまらなさそうに眺めている少年の前に小走りで向かうと、「悟様」と呼びかける。

「ん。あきら?」

我に返ったようにぱちぱちと大きな目が瞬く。あきらはもう一度息を吐き、「離れないでくださいと約束したでしょう」と叱るような口調で言った。
案の定、少年の頬がむっとふくらむ。

「だってどいつもこいつもウゼーんだもん」

先ほど見上げていたビルの方を再び睨み上げて、苛立たしげに悟は言った。
つられて見上げることはせず、あきらはただ気配を探る。まとわりつくような、陰湿な呪力の気配をすぐに捉え、思わず眉間に皺が寄る。

「…………」

な、と目で同意を求められた。

どうも最近、あきらの主はその筋の人間につけ狙われている。賞金がかかっているのだ。
六眼と無下限呪術、その二つを持ち合わせて産まれてきた彼のことを邪魔に思う人間は、呪術界にはどうやら山ほどいるらしい。
まだ二桁の年齢にもならない子供に対して、金なんてもので悪意を向ける人間がいることも、それを向けられているのが自分が世話をする少年だということも、あきらにとっては反吐が出るような事実だ。

つい顔に出た嫌悪感をなんとか取り繕って、先ほどよりは優しげに、「今だけですよ」と語りかける。

「ホントに?」
「ええ。すぐに皆わかります」
「……何が?」

きょとんとしている悟に向かって、あきらはにっこり微笑んだ。

「自分がどれだけ愚かか、ということが」

賞金なんて。
全く馬鹿げたことだ。
あきらの主が——五条悟が、一介の呪詛師風情の手などに負える存在であるものか。図に乗るにも程がある。思い上がりも甚だしい。
大体奴らだって、一目見ればわかるはずなのだ。
興味本位、自信過剰、金目当ての人間はすぐ消える。二回目がないなら、そう時間はかからない。待っていればいずれ平穏は戻るだろう。

「……どういう意味?」

あまりわかっていないらしい主に答えることはせず、あきらは「早く行きましょう」と話を変えた。目的地に向かって踵を返しながら、肩越しに振り返り、ちゃんとついてきてくださいねと念を押す。
答えを貰えなかった悟がまたむっとふくれた。

「別におれ、大丈夫だし。あきらより強いし」
「迷子になりますよ」
「…………」

いくら強くても、そっちは困るとわかっているようだ。はぐれないためか、無言で自分の上着の端を掴んだ子供の顔はこの上なく不満そうで、あきらは一層笑ってしまった。