※夢主死にます
高遠あきらが死んだ。
特級と見なされた呪霊に立ち向かって死んだ。
担当の補助監督はあきらの報告を聞いてすぐに増援を手配したが、連絡を受けた術師が現場に足を踏み入れたとき、既に呪霊は跡形もなく、事切れた彼女の亡骸だけが転がっていたそうだ。
「遺体は見ない方がいい」
高専の安置室に到着した七海に、家入が言った。損傷が酷い、と具体的なことは言わず、七海を止める。
首を横に振り、会わせてくださいと努めて冷静に伝えれば、少し困ったような顔をしたけれど、それ以上阻むことはなかった。
部屋の中には白いシーツをかけられたあきらの遺体だけが横たわっていた。
終わったら教えてくれ、とだけ静かに言い含めて、家入はすぐに部屋から出ていく。つかつかと硬質の足音をたてて、七海はシーツの上からでも歪だとわかるあきらの残骸に歩み寄った。
こんな時だというのに震えもしない手で、あきらを隠すそれを取り去る。
彼女の遺体は、生前の面影はあるものの、言われた通り酷い状態だった。
脚が途中からなく、骨が露出している。わき腹が食いちぎられて、肉や内臓が覗いていた。左腕には呪霊が付けたと思われる歯形が白い肌に深く刻まれていて、頭部にも噛みつかれた跡があった。
――だというのに、口元には確かに笑みが浮かんでいた。
相打ちだったのだと聞いている。
きっと彼女は腕を喰わせて、利き腕である右腕で、渾身の一撃を喰らわせたのだろう。
生き残ることなんて考えず、痛みさえ忘れて。
そういう呪術師だった。
そういう女だったのだ。
今まで五体満足で生きていたのが、不思議なくらいの人だった。
呪術師に悔いのない死はないと、いつか七海を教えた教師は言ったけれど、目の前のあきらにはきっと、それが当てはまらない。
後悔するのも悲しむのも全部残された者に任せて、彼女は逝ってしまった。
「……満足ですか、あきらさん」
あまりに広いその部屋に、七海の声がぽつりと響いて、すぐに消えていく。
――満足よ、やってやったわ!
高らかに笑う声が聞こえてきそうなほど、あきらの口元だけが、いつも通りの形をしていた。