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特級と特級/学生五条

特級術師は忙しい。

特級の名を戴く術師はあきらを含めて四人、そのうち一人はここ数年仕事もせずに海外をブラブラしており(いつかボコボコにしたい)、また一人は真面目で将来有望だったのに、数年前どこかの村の住人を皆殺しなんていう大事件を起こして姿を消した。
残りの一人は高専に所属しているが、まあまだ学生なので、割り当てられる任務には一応気遣いが残る。
すなわち、この呪霊溢れる世界で、一級術師ですら手に余ると見なされた仕事の数々をまともにこなせる人間は、あきら一人だということだ。

特級術師は忙しい。
高遠あきらは不本意ながら、その中でも一番忙しい。

時々逃げてやろうかと思わないこともないが、特級という位置づけが等級と言うより危険人物の認定に近いことを考えるとそうもいかない。飛び抜けた力を持った者が、まともに生きていたいなら、どんなに面倒だろうが権力に従う姿勢を見せなければならないのだ。長いとも短いとも言える今までの人生で、彼女はそう学んでいる。

とはいえ実のところ、希望はあった。

学生は卒業する。

高専側に所属しているもう一人の特級呪術師、五条悟はもうじき五年の在学期間を終え、卒業を迎える。そうなれば学生には倫理的にあてにくい任務があきらに全部押し付けられることも、子供でかわいそうだから休みをなるべくあげようなんて気遣いもいらなくなる。あきらの負担が減るのは確定だ。
わずかな希望を胸に、あと二ヶ月、あと一ヶ月とカレンダーを確認しながら、あきらは栄養ドリンクを飲み、呪力を絞り出しては毎日呪霊と戦っていた。

そしてあと十日、となった日のことである。
 

「俺、高専の教師になるから」
「…………は?」
 

久しぶりにもう一人の特級と顔を合わせた日だった。たまたま仕事が入っていなかったらしい五条に高専ではち合わせたあきらは、頗る友好的にもうすぐ卒業だねえと声をかけた。卒業祝いに何が欲しいかまで尋ねて、目を輝かせた五条がなにやら高そうなブランドのスニーカーをねだっても、あきらはにこにこ頷いた。特級術師の懐と卒業のめでたさをもってすればそんなものは端金に近い。そこでやりぃ、と子どもらしく喜んだ五条が、思い出したようにそうだと切り出したのだ。
 

──俺、高専の教師になるから。

──俺、高専の教師に。

──教師?
 

「…………はぁ!?」

言われた言葉を反芻して、意味を理解したあきらが目を見開いて吠えた。五条が驚いた様子で一歩下がり、突然雰囲気の変わったあきらを見る。

「仕事は!?」
「はぁ?まあそれなりにやるけど。今まで通り」
「それなりじゃ困るんだよ!!ご冗談でしょう!?」

教師になるということはあれだ。考えたことも調べたこともないあきらにはわからないがもしかして資格を取りに外部の学校に通ったりするのかもしれないし、なったらなったで教師としての仕事で時間が圧迫されるわけだから、受けられる仕事の数は減ることはあっても増えることはない。
ということはつまり。

「わ、私の仕事は……減らない…………」
「あ、確かにそうかも」
「そうかもじゃない!このクソガキ!!」

怒鳴ると流石にイラッと来たらしい五条が、こめかみに青筋を浮かべた。笑顔とは裏腹に呪力が滲む。

「誰がクソガキだって?」

生憎、今向かい合うあきらには、謝って場を納めるような頭はない。

「……あんた以外にいるわけ?」
「………………」

睨み合う二人から滲み出る呪力は段々と強まり、この日、呪術高専東京校では、ちょっと大げさに地形が変わった。