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たぶんきっと一生※/夏油

※過去編軸

 

「あきらも行くかい?」

随分唐突だったと思う。
次の任務についての詳細を知らされたらしい夏油が、口の端に作ったような笑みを浮かべながら、何気なく口を開いた。

「結構東の方だから、涼しいと思うよ」

言いながらバサバサと、貰った資料を掲げてこちらに示す。携帯をいじっていたあきらはハア?と片眉を上げて夏油の方を見る。相変わらず何を考えているかわかりにくい顔だ。

「久しぶりにさ」
「…………」

同級生の一人、五条が単独で任務をこなすようになってから、しばらくが経っている。
最初はあきらと夏油のコンビで動くことが多かったが、最近は人手が足りないのもあってずっとばらけていたので、きっと退屈になってきたのだろう。まあ確かに気が滅入りやすい仕事ではあるから、できれば誰かと一緒に行きたいという気持ちはわかる、が。

「やだ」

言いながら携帯の画面に視線を落とした。最近暇つぶしに読んでいる小説の活字を目で追いながら、「足手まといになるじゃん」と続ける。

「そうかな」
「そうだよ。特級派遣されるような案件でしょ。今かなり絞ってるって聞いてるよ、なるべく準一級と一級で実態探ってから回されるって」
「悟だけだよ。私の方は適当だ」
「どうだか」

疑うような目つきを向けると、夏油が苦笑した。その顔がふと以前よりも痩せたように見えて、あきらは少し心配になる。
夏バテなんだと前に言っていたのは知っているが、もしかしてまだ本調子ではないのだろうか。

「…………やっぱついて行こうか?」

しばらく考えた後、難しい顔をしたあきらが切り出した。夏油が目を丸くして、プッと控えめに吹き出す。「いいよ、無理しなくて」と続けた。

「無理なんてしてないけど」
「最近あまり休めてないだろう?怪我をされてこっちに回る任務が増えても困るしね」

まだ何か言いたげにしているあきらに、「一人で大丈夫」と笑顔を向けた。
こうまで言われてしまえば、もう何も言い募ることはできない。
すぐ帰ってくるよと夏油は続けて、あきらはそれに、うんと返した。
 

**
 

「新宿で夏油に会ったよ」

突然部屋に入ってきた硝子が、目が合うなり言う。ベッドから起き上がって胡座をかき、あきらはそう、と返した。

「なんか言ってた?」
「非術師殺して、術師だけの世界作りたいんだって」
「……馬鹿だねえ」
「馬鹿だよ」

一人になりたくないのかもしれない。そのままぺたりとカーペットの上に座って、ポケットから煙草を取り出す。
普段なら部屋の中ではやめてよというところだが、そんな気力もなく、立ち昇っては消えていく煙を、あきらはぼうっと見つめた。

「ついて行けばよかったな」
「……何?会いたかったわけ?」
「硝子にじゃないよ」

夏油にだ。
あきらも行くかい、そう聞かれたあの時が、多分最後のチャンスだった。

訝しげな顔をしている硝子に、夏油が消えた任務前のことを話すと、彼女はしばらく黙り込んだ。言葉を探しているのだろう。
ふう、と煙を吐き出してから、眉を寄せて「あきらのせいじゃないよ」と言ってくれる。

「うん」
「あそこで何があったのかわからないんだし。あきらがいても、何も変わらなかったかもしれない」

硝子は優しい。言っていることも間違っていない。
あきらがもしついて行ったとして、できることがあったかはわからないのだ。最悪殺されていたかもしれないと、それは自分でも理解している。何より可能性の話なんて、今という現実がある以上なんの意味もない。
それでもきっと、あきらは一生、このことを後悔するのだと思う。この先ずっと、何年経っても。いつか死んでしまうまで。

「……硝子」
「何?」
「今日さ、一緒に寝よう」

脈絡なく誘うと、硝子はハハッと笑って、いいよと答える。
煙がまた、細く立っては消えて行った。