※学生時代
ついこの間までひゅーっひょいとかいう硝子の適当な説明に意味わかんねえと一緒に呆れていたはずの五条が、反転術式を修得したらしい。あきらが海外に出張に行っていた間に何があったのかと思ったが、いつも通りの五条もどこかテンションの低い夏油も、どちらもあまり語りたくなさそうだったので聞かないでおいた。どうせ無理矢理話させるほど興味があるわけでもないのだ。
というのはさておき、反転術式。反転術式である。怪我を治せる便利なやつだ。
「説明のしようがないんだって」
「え〜?」
「マジマジ。今となっては硝子の説明が一番近かった気さえする」
「ほらー!」
「それはないでしょ」
五条の言葉に硝子が胸を張ってそれ見たことかと威張っている。あきらはじっとりと疑わしそうな目つきで、術師としてひとつの境界を越えている二人を見やり、それからねえ夏油、と隣の席に同意を求めた。ああ、と曖昧な、心ここに在らずと言った頷きが返り、眉を顰める。
「どしたの?」
「……いや……なんでもないよ」
教師役と言わんばかりに教壇に立った二人は、ひゅ〜だのひょーだの身振り手振りで、ふざけているのか真剣なのか判別がつかない。どちらにしろ手がかりを得るのは難しそうだ。しまいには「一回死にかけてみたらいいんじゃね」と言い出したので、あきらはとうとう諦めた。
楽しそうな二人を眺める夏油に視線を移す。やっぱり上の空だ。多分興味がないのだろう。
それもそうだ。夏油が五条に負けず劣らず飛び抜けた術師であることを、あきらはよく知っている。わかりにくい解説を聞かなくたって、どうせそのうち反転術式でもなんでもできるようになるに決まっている。
だからからかうつもりでにやっと笑いかけてみた。
「ま、あんたもいずれ向こう側だもんね。才能のあるやつはいいなあ。一人だけ置いてかれる身にもなってよ」
「……そんなことはないさ」
否定する夏油の声は乾いていた。さすがに少し心配になってどうかしたかと聞いた。
「私では無理だ。悟のようにはできない」
「え」
呆気にとられたあきらが目を丸くして、慌てたように「何言ってんの」と尋ねた。
違うだろう。ここは当たり前だ、悟にできたんだから私も近いうちにできるだろうねとか、なんというか、そういうやつだろう。
なんて言葉をかけたらいいのかわからなかった。
あきらがあわあわしていると、不意に夏油がふふっと吹き出して、「冗談だよ」と付け加える。
「……びっくりするじゃん」
「ははは」
夏油は軽く目を伏せて笑うと、喉が渇いたから自販機に行ってくると席を立った。気づいた五条が俺も行く!と寄ってきて肩を組む。連れ立って教室を出ていく、その後ろ姿だっていつも通りで、何もおかしいことはない。
「どうしたの、あきら」
「いや、えーと……」
教壇から降りた硝子があきらの机の横に立ち、こちらをのぞき込んできた。
「……ちょっとびっくりしただけ」
どうやらほっとし損ねてしまったみたいだ。夏油らしくもない、とても下手な、冗談だった。