風が頬を撫でている。
日差しはやわらかく、横たわった体を温める。何も予定のない日の日曜の朝、気分はそんなものだ。
ここはどこだろうと考えてみても、頭には靄がかかったようで、何も思い出せない。体がひどく重い。殆ど力が入らなかった。意識はあっても、まだ目を開ける気がしない。
もうしばらく眠ろう。そう思ったところで、顔の上にすっと影が差す。
「起きないねえ」
高い声。
女性というよりは少女の声だ。どこかで聞いた覚えがある。けれどもうまく思い出せない。
「疲れてるんだよ。最後の最後まで頑張ってたから」
「起こす?」
「いや、待とう」
語りかけるような語尾に応え、もう一つの気配が声を発した。少年の、明るい声だ。これもやはり聞いたことがあった。
眠気の中で記憶を探る七海から、二つの気配がそっと離れた。
寝顔を覗き込むのはやめたらしい。少し移動して、それぞれ両側に座ったようだ。
草を踏む音。
「こんなに頑張らなくてよかったのに」
あーあ、と高い声が溜息を吐く。少し控えめに笑いながら、「でも七海だし」と少年が答える。
二人のやりとりは穏やかで、聞いているうちに段々と、頭がすっきりしていく。
七海は今自分が寝転がっている場所が、対して居心地の良いところではないと気づいた。
柔らかいとはいえ土の上だ。腰のあたりに大きめの石を下敷きにしているようで、少し痛む。
青臭い草の匂い。草を薙ぐ風の音。
少年と少女、二人の声。
何もかもに覚えがある。
そうだ、例えば高専に通っていた頃に、こんな日はなかったか。
「まだ二十七だっけ?」
「早すぎるよねぇ」
その言葉を聞いた瞬間、不服そうに膨れた頬までありありと思い出して、七海はやっと目を開いた。
視界には遠い昔にいなくなった同期たちの顔と、南国の力強い青空とまでは行かないが、広く高い空がある。
あ、起きた、と気づいて笑いかけてくる二人を、七海はあの頃のように見つめ返した。
「……あなたたちに言われたくはないですよ」
呆れた声を出そうと思ったのに、それでも少し、どうしても笑いが滲んでいたと思う。