「おっ、これ新刊出てたんだ」
声を弾ませたあきらが七海を振り向いた。その手にはたった今人の家の本棚から引き抜いたハードカバーの書籍がある。
ソファーに座ってテレビを眺めていた七海が表紙をちらりと見て「先月出ました」と答えると、あきらは嬉しそうに笑った。
「このシリーズ面白いんだよね。最近本屋行ってないから知らなかった」
「そうですか」
「面白かった?」
「わかりません」
「ん?」
「まだ読んでいないので」
あきらが七海の言葉を聞いて、訝しげな顔をする。
引っ越した時に適当に買った本棚には、結構な数の本が並んでいるが、実のところ半分以上手をつけていない。
一級術師は忙しいのだ。どうせ本を読むなら移動中などではなく落ち着いた状態で集中して読みたいなどと贅沢を言っていると、本当に読む機会がない。そのくせ本屋に入るのは習慣のようになっているし、下手に金があるせいで本を買うのにも躊躇いがないから、こうなる。
多分察したのだろう。
眉を顰めたあきらが手に取っていた本を戻し、別の本を取った。こちらに表紙を見せる。
「これは?」
「読んでません」
「…………こっち」
「まだです」
何度か繰り返すうちにあきらの顔がひきつっていく。もう何回か同じことをして、そしてようやく諦めたのか、ハアと大きな溜息を吐いた。
「こういうの積読って言うんだよ」
「らしいですね」
答えるともう一度溜息を吐いて、手に取った本を本棚に戻した。
こちらにゆっくりと戻ってくると、七海の隣に座る。特に気にした様子もなく、引き続きテレビを眺める七海を横目で見て、「決めた」と口を開いた。
「……何をですか」
「今年の誕生日プレゼントは、休みにする」
はあ〜とこれみよがしな三度目の溜息を吐いてあきらが続ける。やれやれと仕草までつけて、「仕事は私が引き受けるから、いっそ一週間くらいゆっくり休めば」と言い出した。
あきらの等級は七海と同じ一級だ。この業界は長いから顔も広い、それなりに力がある家の出なので影響力もある。七海の仕事を引き受けるのに問題はないし、少々無理をして調整すれば、一週間くらいの休みは本気でどうにかしてくれそうではあった。
──だがそれを自分が望むかと言えば。
仕方がないなあとこんなときだけ年上ぶってくるあきらに、視線を向ける。
「結構です」
「え」
固まってこちらを見るあきらに向かって続ける。
「一人で休んでも意味ないでしょう」
「…………」
やれやれという手の形のままあきらが少し動きを止めた。そして我に返ると、そろそろと手を下ろす。
膝の上に手を揃えると、
「じゃ、じゃあ」
さっきより小さな声がした。
「一週間はさすがに無理だけど…………み、三日くらい……休むとか……」
二人で、と更に小さく付け加えられた言葉に、いいですね、と小さく笑う。
ごまかすように「この際五条にも働かせるかぁ!」と言い出したあきらの耳は、ちょっと赤くなっていた。