※学生時代
月に一度は誰かの部屋に集まって、映画を見るなりゲームをするなりして一緒に過ごすことになっている。
術師にもある程度チームワークは大事だとか、同期として親睦を深めるとか、理由としてはいくつかあるが、まあただ同じ年だけで気兼ねなく遊びたいだけの集まりだった。
今日は五条の部屋で映画を見る日だ。
部屋のローテーブルの上にはスナック菓子の袋がいくつかと、それから今日見る予定のDVDが置いてある。
「えっ」
硝子と連れ立って、お邪魔しまーすと室内に入ってきたかと思うと、あきらは片手に下げていたビニール袋をドサっと落とした。中に入っていた缶ジュースがゴトゴトと音を立てたが、構わず信じられないものを見るかのように五条を見る。
「ホラーじゃん!!」
「……ホラーじゃねえよ、スプラッタ」
「同じじゃん!!」
私苦手だって言ったよね!?とあきらが吠える。
五条はぷいと顔を背けた。
「知らねー」
「はぁ!?」
嘘だ。
本当は知っているし覚えている。
ちょっと前の金曜ロードショーで、そんなに怖くもないシーンでびくついて隣の家入にしがみついていたのをしっかりと覚えているし、そのシーン以降は何もなかったのに、ずっとくっついて離れなかったのも覚えていた。
だから今日はわざわざ、結構びっくりするシーンありホラー的なシーンありのこの映画を、店でああでもないこうでもないと唸りながら厳選して借りてきたのだ。
後はあきらが自分の横に座れば準備は万端である。
立ち止まったあきらを追い越して、硝子がスタスタと部屋に踏み入ってきた。
結構大きめのテレビ、その前に置いてあるローテーブル。ベッドを背にして五条と、五条の企みを知っている夏油が並んで座っていた。
まだぶつぶつと嘆いているあきらから、五条は家入に視線を移した。ここで家入が「ちょっと詰めてよ」とでも言い出してしまえばこの計画は失敗なのだ。
「…………」
目が合った。
硝子は察しがいい。ハーンと理解したような顔をすると、「夏油の隣でいいや」と言った。
五条は内心ガッツポーズをする。後で何か要求されるかもしれないし、テレビの前を通るときにポテチが一袋奪われていったが、そんなのは全然構わない。寧ろ感謝の気持ちでいっぱいだ。
ショックを受けたのはあきらの方で、「えっ硝子!?」と声を上げている。
「やだよ隣にいてよ」
「もう座っちゃったもん」
「そんなぁ……」
肩を落とすその様子を機嫌よく見ながら、それを表に出さないように気をつけて、五条は「早く座れよ」とあきらを促した。
渋々、と言った様子であきらが自分の右隣に座ったのを確認すると、まず立ち上がって照明を落とす。リモコンを操作した。
宣伝関係は全部飛ばしたから、ほどなくして本編は静かに始まった。
まず冒頭で最初の殺人が行われるというのは、あらすじに書いてあったから知っている。ということはそこから五条の楽しみが始まるわけだ。
隣を盗み見ると、あきらは不安そうな表情で、けれど画面に集中していた。
「あきらの横じゃなくてよかったのかい」
あきらとは反対側に座る親友が小声で話しかけるのが聞こえた。
ポリポリと早速開けたポテチを食べながら、「うん、ホラーだし」と硝子が答える。
オマエら映画見ろよと言える立場ではないので、五条はなんとなくそれを聞いていた。
画面の中では最初の被害者に忍び寄っていく影が動いている。手に持ったナイフが光をぎらりと反射する。
さっそく映画に没入しているあきらが、ごくりと息を呑む。
「あきらが怖がるから?」
「そーそー。くっつかれるのは別にいいんだけど、馬鹿力だからさぁ」
「は?」
めちゃくちゃ痛いんだよね、という硝子の言葉と、絹を裂くような女の悲鳴が響いたのはほとんど同時だった。目論見通り五条の右腕を掴んだあきらが、その細腕に渾身の力を込めたのも、ほぼ。