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タイムカプセル/五条

※幼少時代捏造

 

いとこと同じ家で同じ学校って、本当に大変だとあきらは思う。家では爺様方を始めとする大人達に悟を頼むぞと念を押されるし、学校では悟の方の五条をどうにかしてくれと先生たちに泣きつかれる。
家でも学校でも当の悟はあきらの拒否なんてお構いなしに手を引いて連れ回すし、常に悟が近くにいるせいで学校では友達もろくにできない。こんな生活嫌だ。齢十にしてあきらはもう少し大きくなったらどこか遠くに逃げ出したいなーと考えている。
 

「書けた!」

今日も今日とてあきらの気なんて知らない同じ年のいとこは、手に持っていたサインペンを机にぽいっと放って足を崩した。
向かい合って座っているあきらに、オマエまだ書いてないの?とイラッとすることを言う。

「まだ……」
「ほんとどんくせーな。適当にさっさと書けばいいのに」
「……」

あきらがノロノロとしているのは本当だから反論もできない。
悟の言う通りなのだ。とっとと適当に書いてしまえばいいのに、あきらの性格ではそれができない。色々と考え込んでしまう。

ただの宿題だった。
今年で創立から何十周年かを迎える学校の記念事業で、木の根本にタイムカプセルを埋めることになったのだ。それに入れるための手紙を、十年後の自分に向けて書いて来るようにと言われたのである。
大人は子どもに夢を持ちすぎだし、子どもの夢に乗っかって何かをするのが好きだなと思う。希望いっぱいに何を書いたところで、叶う人間なんてどうせほんの一握りしかいないのに。

「なんでもいいじゃん。元気にしてますかとか」
「そーだけど……悟はなんて書いたの?」

身を乗り出して、机に置いたままの手紙を覗き込む。
悟は見んなよ!と隠したが、冒頭に「十年後の俺へ。身長190ごえの最強イケメン呪術師になってますか」という文字を読み取り、あきらは白い目をいとこに向けた。

「み、見た?」
「見た。いくらなんでも夢見すぎだと思う」
「どこがだよフツーだろ。……その後は?」
「見えてない」
「そ」

ホッとした様子の悟が何を書いたのか、あきらには予想がつかないし興味もない。悟はこちらをチラチラと気にしながら、手紙を折って封をし、そばに置いていたランドセルの中に仕舞い込む。
はあと息をついているうちに、二人がいる部屋の障子の向こうに人が立つ。「お二人とも、おやつの用意ができましたよ」と知らせるこれは使用人の声だ。いいお天気なので縁側に用意してございます、と声が続く。

「あきら、行こ」
「後で行く。……わたしの分残しといてね」

睨んでも悟は笑って首を傾げるだけだ。早く来いよと言い残して、今はまだ自分よりも背の低いいとこはどたばたと部屋を出て行った。
あの調子だと、おやつの内容次第ではあきらの分まで平らげるに違いない。あきらのものは大体俺のもの、俺のものは俺のものがあのいとこの基本姿勢だ。

「うーん」

頭を悩ませながらサインペンのキャップを外し、あきらはようやく真っ白い紙にペン先をつけた。「十年後のわたしへ。東京のコーセンに行ってますか。悟からは無事はなれられましたか」と書く。

絶対に見られないようにしないとな、とあきらはきっちり紙を折り封をして、自分のランドセルの中に仕舞い込んだ。