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悠仁と電話/六月

『お願いがあんだけど』

携帯の画面に表示されたのは虎杖悠仁という四文字。いきなり電話をかけてきたと思ったら、幼なじみは開口一番そう言って黙り込んでしまった。
噂の早い田舎のことだ。悠仁の祖父が昨日亡くなったことは母に聞いてもう知っていたし、もしかしてそれがらみだろうか。うん、と真剣な声であきらは応えた。

「私にできることなら何でも言って」
『……マジ?』
「マジ」

うーん、と電話の向こうで唸る悠仁の声には不思議なことに悲壮感がない。少し訝しく思いつつ、それでも大人しく先を待つあきらに、『あのさ』やっと悠仁は切り出した。

『オカ研入ってくんないかな、と思って』
「…………はぁ?」

予想外すぎる頼みに素っ頓狂な声が出た。悠仁が慌てて続ける。

『俺が抜けたら……ていうか元々入ってなかったらしいんだけど、でもいなくなったら定員三名に達してなくて廃部ってプランクトン生徒会長がさぁ』
「プランクトン生徒会長?いや、ていうかいなくなったらって何?何の話?」

陸部の高木には勝ったんじゃなかったの、と尋ねれば勝ったんだけどと歯切れ悪く言葉が続く。

『引っ越すことになってさ』
「はあ?いつ!?」
『明日には東京だって』
「東京!?しかも明日ってなんでそんな急に」
『うーん……うまく説明できねーんだけど……』
「……おじいちゃんが亡くなったから?」
『それもある』

そう言われてしまうと、もうあきらには何も聞けない。大丈夫なのとか親戚んち行くってことかとか、学校はとか戻ってくるのとか、聞きたいことは山ほどあるが、いくらなんでも不躾すぎる。肉親を亡くす気持ちはあきらにはわからないから、余計にだ。

「……わかった。オカ研入る」

ならあきらがしてやれることは、これだけしかない。

『おっ』
「て言っても名義貸すだけだから。怪しげな活動には絶対参加しないからね」
『おー、いいいい。まあ時々部室に顔出してやってよ。先輩達喜ぶと思うし』
「……悠仁」
『ん?』

今度はあきらが黙る番だった。名前を呼んでおいて言葉が何も見つからない。口をぱくぱくと動かして、閉じて、何かを言い掛けてを繰り返すうちに、時間はどんどん過ぎていく。

『あきら』
「…………」
『ごめんな』

なんであんたが謝んの。そう返してやりたいのに。言葉にならない嗚咽がのどの奥から出てくる、悠仁はそれを静かに聞いている。
あきらの大事な幼なじみは、明日、この町を出て東京へ行く。