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真依とジョニオタ先輩

※じゅじゅさんぽネタ

 

「高田ちゃんの握手会行ったってホント?」

一つ上の先輩であるあきらに顔を合わせるなり尋ねられて、真依は一瞬ギクリとした。東京に行って、会場への道案内のついでに、高田ちゃんとやらのイベントに参加させられたのは事実だ。動揺をなるべく表に出さないようにして「本当よ」と答えると、あきらは探るような目をして質問を続けた。

「……東堂が、真依は未来の高田ちゃんファンとしての素質がある、高田ちゃんの良さを理解し始めたようだってめちゃくちゃ上機嫌に語ってたけど、それは?」
「…………そ」
「ホントなんだ?」

押し込めていた動揺が表に出た。ギクギクっと身動ぎをしたのをあきらは見逃さない。それでもそんなわけないでしょと否定しようとしたのに、被せるように言われてしまい、真依はとりあえず咳払いをした。
あきらがこちらをまじまじと見る。からかわれでもするのかと眉を顰めていると、あきらは何故か心底嬉しそうに、にこーっと満面の笑みを浮かべた。不気味だ。

「……何」
「いやー、アイドルに興味が出た真依にいいものあげようかと」
「は?」
「これ!」

笑顔と共にピラっとチケットを差し出され、真依はデジャヴを覚える。

「女の子もいいけどさぁ、やっぱアイドルって言ったらジョニーズは外せないでしょ。ちょうど一枚余ってるし一緒に行こ」
「……嫌よ」
「過去円盤、雑誌の切り抜き、逸話などなど福利厚生は私が提供するから。明日の物販も奢ってあげる、うちわでもペンライトでも好きなものを好きなだけ買っていい」
「嫌だって言ってんでしょ」
「まあまあ、まあまあまあ」

あきらは聞く耳を持たない。真依の嫌そうな顔にもめげず、一回だけ!一回だけでいいから!としつこく誘う。
これはあれだ、握手会の時と一緒だ。行くのは面倒だけど断るとそれはそれで面倒だし何より今ここであきらの懇願を退けること自体がもう既に面倒だ。
オタクってみんなこんなに面倒くさいものなのだろうか。

「絶対損はさせないから!!」

仲間が増えるかもという期待に目を輝かせ、拳を握って力説するあきらには、真依のことなどまるで見えていないようだった。

 

**

 

終わってから。
 

「は〜最高。愛してる。これでまたしばらく生きられる」

コンサートの興奮冷めやらず、夢見るような表情であきらが言った。足取りがフワフワしていて危なっかしい。酒にでも酔っているようだ。

「あっ真依、どうだった!?」
「…………」
「真依?どしたの?もしかしてあまりの良さに放心状態?」

無理もない無理もない、とうんうん頷きながら繰り返すあきらは結局東堂と同類だ。
違うわよと呆れながら真依はさっきまでのことを思い返す。
曲はあきらがカラオケに行くたび歌うものが多かったから全く知らないものというわけではなかったし、退屈は確かにしなかった。周りの声が終始高くて耳障りだったがそれも許容範囲ではある。少なくともオタク男に囲まれた時より気分はマシだ。
──だが。

「……」

ゴンドラが近くに来た時も、名前も知らないステージ上の誰かが明らかに自分に向かってウインクを飛ばしてきた時も。

正直、あんまり。

「真依、心配しなくても何でも貸してあげるって」

あきらはこちらの気も知らず、誰々くんとか好みなんじゃない?だのなんだの一人でぶち上げては悦に入っている。

「いらないわ」
「またまたぁ素直じゃないんだから〜」

人の話を全く聞くつもりがないあきらの後を、真依は気もそぞろについていく。まーいちゃん、というあの平仮名の発音を思い出して、なんとなく空恐ろしいような気持ちになった。