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うろ覚えな五条

※学生時代。これと同じ禪院夢主

 

行儀悪く向かいの席に座った五条から、来週禪院家の人間が呪術高専東京校にやってくると聞いて、禪院あきらはわかりやすく顔をしかめた。いつも愛想笑いを浮かべている人間にしては珍しい表情だ。手に持っていたお茶をひとくち飲んで、「なんでわざわざ東京まで」と文句のようなことを五条に言う。

「知らねー。なんか依頼でもしたんじゃね」

呪術界は常に人材不足。禪院家の人間を使おうと思えばそれなりに報酬は嵩むが、だからといって背に腹は代えられない。高専から何かしらの依頼があるのはそう珍しいことでもない。

「いつ、誰が来るかわかりますか?」

そんなもんオマエが聞けよ、と言いたいところだったが、それができないのは知っていたから言わないでおく。家を無理矢理出て高専にやってきたあきらは、ある意味五条よりも禪院家から縁遠い。当然のことながら連絡は取っていないのだろうし、そもそも近頃は、禪院家からの圧力で一年のうち自分だけ昇級が認められないことに怒り心頭だ。
わざわざ煽る必要もないので、五条は素直に自分の知っていることを話した。

「水曜か木曜かどっちか。んでえーと……ホラ、禪院家の天才君。名前なんつったっけ」

ぴく、とあきらの口の端が引き攣った。五条は気にせず、青の瞳で上を見て、どこかで聞いたことがあるはずの名前を思い出そうとしている。禪院家の天才君は禪院家で馬鹿みたいに持て囃されているので、あきらは当然名前を知っているのだが、それを教えることはしなかった。じっと沈黙を守り、何かを考えているようだ。

「あ、思い出した。タツヤだ、タツヤ」

五条がぽんと手を打つ。あきらが一瞬、え、という顔をした。
次の瞬間五条が同意を求めるようにあきらに顔を向けると、あきらはもういつもの愛想の良い笑顔を取り戻していた。
「そうですね、タツヤです」と頷く。

「今の当主と術式同じなんだろ。やっぱそこそこ強いわけ?」
「いえ、五条先輩と夏油先輩に比べたら全然です。象の前のアリみたいなものです。絡まれたら遠慮なく踏み潰してやってください」
「オッケーオッケー」
「あとこれはお願いなんですが」
「ん?」
「万が一、タツヤに私のことを聞かれても、何も答えないでくださいね。絶対にですよ」

そう念を押すあきらの笑顔は、いつもと少し違って、どこか迫力が滲むものだった。